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カメの絶滅はスローに見える〜日経サイエンス2019年9月号より

若い個体の減少が目立ちにくいので,気づいたときには手遅れかも

 


いらすとや

40年近く前,当時豪アデレード大学にいた動物学者のトンプソン(Michael Thompson)は警戒すべきことを発見した。オーストラリア南東部を流れるマレー川の河岸に産みつけられたカメの卵の90%以上が,侵入種のアカギツネによって食べられていたのだ。この調査は高齢のカメの数が不釣り合いに多いことも明らかにし,キツネが卵を食べたことで若いカメの数がすでに減っていることをうかがわせた。対策を講じなければ,以前はたくさんいたカメがついには絶滅するだろうと,トンプソンは警告した。

 

しかし対策はほとんど取られず,トンプソンの予測は現実になろうとしているようだ。最近の調査によって,マレー川沿いの各地で数種のカメが劇的に減るか姿を消したことが確認された。「問題は,カメが長寿なために,減っているようには見えないことだ」と,ウェスタンシドニー大学の生態学者で2月のScientific Reports誌にこの研究を報告した論文を共著したスペンサー(Ricky Spencer)はいう。「何かを失ってからようやく後悔し始めるのは,人間のさがだ」。

 

残っていたのは高齢の成体

スペンサーらはマレー川南部の52カ所で,かつてたくさんいた3種のカメ(コウヒロナガクビガメとオーストラリアナガクビガメ,マッコーリーマゲクビガメ)の個体数を数えた。一定の時間内に捕獲できた数をもとに,それぞれの種について個体群の規模を推定した。この結果,以前に数多く生息していた場所でカメが消えていることが判明したほか,何とか捕獲できた標本はほとんどが大きな成体で,つまり高齢だと考えられた。スペンサーらは,この減少の原因が環境の悪化や2000年代に入ってからの深刻な干ばつとともに,キツネがカメの卵を捕食しているためだとみている。(続く)

 

 
再録:別冊日経サイエンス235「進化と絶滅 生命はいか誕生し多様化したか」

 

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