SCOPE & ADVANCE

じつは単細胞 海ぶどうの謎〜日経サイエンス2019年6月号より

沖縄科学技術大学院大学,全ゲノム解読で体形成メカニズムの一端を解明

 

Sea grapes still photosプチプチの食感と適度な塩味がくせになる海ぶどう。細長い茎の先に無数の丸い粒が並ぶ姿は特徴的だ。しかしこの海ぶどう,アメーバやミドリムシと同様,単細胞の生物だという。「1つの細胞で,どうやってこの複雑な体を作り出せるのか」。様々な海洋生物のゲノム解析を手掛ける沖縄科学技術大学院大学(OIST)の佐藤矩行教授と有本飛鳥研究員らは海ぶどうの全ゲノムを解読し,体作りのメカニズムの一端を解明。DNA Research誌に発表した。どうやら,この単細胞生物は体内で相当高度なことをやってのけているようだ。

 

あなどれない単細胞生物

海ぶどうは藻類,より正確には緑藻の仲間だ。食用に出回る養殖ものの海ぶどうは10~20cmの長さだが,自然では1mを超す場合もある。葉・茎・根に相当する部位を備え,その姿はとても1つの細胞には見えない(下の図)。学校の理科の授業を思い出してみよう。植物でも動物でも,1個の受精卵から細胞が分裂し,役割を分担しながら複雑な体を作り出すと学んだはずだ。それを海ぶどうは,なんと1個の細胞の中でやってのける。

 

海ぶどうは1つの細胞でありながら,多数の核を持つ生物でもある。これは菌類や藻類の仲間でしばしば見られる現象で,核が分裂しても細胞全体は分裂しないために1つの細胞の中に核が増えていく。そのため海ぶどうでは,葉や茎に相当する部位でそれぞれ多数の核が存在している。

 

たくさんの核で役割分担

研究チームは,次世代シーケンサーを用いてこの風変わりな生き物の全ゲノムを解読した。ゲノムサイズは約2800万塩基対。これは,球状の単細胞緑藻であるクロレラ(約4600万塩基対)より小さい。また,遺伝子の数は陸上植物のモデルとしてよく用いられるシロイヌナズナの約3分の1に相当する9311個だった。陸上植物と緑藻は,約7億年前には共通の祖先から分かれていたと考えられている。シロイヌナズナやイネ,各種の緑藻が持つ遺伝子と比較すると,現在の海ぶどうはこの共通祖先が持っていた遺伝子の一部を失っている。

 

単細胞で複雑な形を作り出すメカニズムの謎は,この厳選された9311個の遺伝子が握っているはずだ。海ぶどうに特異的な遺伝子を探索すると,いくつかの特徴が見つかってきた。(続く)

 

続きは現在発売中の2019年6月号誌面でどうぞ。

 

サイト内の関連記事を読む