SCOPE & ADVANCE

うまく失敗する方法〜日経サイエンス2019年6月号より

最新版“失敗学のすすめ”

 

「失敗は成功の母」といわれる。この決まり文句には一面の真理があるかもしれないが,実際にどうしたら負けを勝ちに変えられるのかを教えてはくれないと京都大学で教育心理学の教授を務めるマナロ(Emmanuel Manalo)はいう。その結果,「失敗しても諦めるべきでないとわかっていても,現実には諦めている」という。

 

マナロとスイス連邦工科大学チューリヒ校の学習科学の教授カプール(Manu Kapur)は昨年12月のThinking Skills and Creativity誌で,失敗の恩恵に関する特集をまとめた。この号に掲載された15件の研究は,学生を成功に導くための指針を教師や教育研究者に提供している。例えばある研究は,学生がロボット作製などの課題でより早い段階で頻繁に失敗するほど,より早くから前進して向上できると報告した。また別の研究は,失敗に関する修正が最も建設的に効くのは,助言者に思いやりがあり,助言の受け手が否定的感情を乗り切る準備ができている場合であることを立証した。

 

ヘミングウェイ効果

マナロらは,ある基本的かつ日常的な失敗の克服に関する自分たちの研究結果も寄稿した。課題を完了しないまま放り出すという失敗だ。彼らは実験で,131人の学部生に大学での経験について作文を書くよう頼んだ。半数の学生は作文の構成に関する指導を受け,残りの半数は助言なしに思うように書いた。ただし全員が作文の完成前に作業を中断させられた。その後に作業を再開させたところ,作文の構成に関する助言を受けていた学生は助言なしの学生よりも,作文を完成させる意欲が強かった。助言なしの学生のほうが作文の完成に近かった場合であっても,やる気は助言を受けた学生のほうが強かった。言い換えると,仕上げる方法を知っていることのほうが,完成に近いことよりも重要なのだ。

 

研究チームはこれを「ヘミングウェイ効果」と名づけた。ヘミングウェイが執筆を中断するのは物語の次の展開が頭のなかにある場合だけで,再開したときに書けなくなるのを避けていると自己報告していたことにちなむ。マナロは一時的に失敗する仕方を学べば恒久的な失敗者になることを避けられ,学位論文の完成や言語の習得,新技術の発明といった多くの課題に役立つだろうと考えている。(続く)

 

続きは現在発売中の2019年6月号誌面でどうぞ。

 

 

サイト内の関連記事を読む