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クジラのおしゃべり〜日経サイエンス2019年5月号より

ザトウクジラのコール音の多くは何十年も変わらない言葉遣い

 

「selfie」(自撮り)や「hangry」(hungry+angry,空腹でイライラしている状態)といった最近の造語は,人間の言語の進化を反映している。クジラなどヒト以外の社会的動物のコミュニケーションパターンも,時とともに変わっている。例えばオスのザトウクジラが繁殖期に歌う「歌」は常に変化している。

 

ところが,歌とは別にクジラが発する「コール」という発声を調べた最近の研究から,コール音の大半は何十年も変化していないことがわかった。この驚くべき結果は,コールは食物探しや社会行動,クジラどうしの個体識別に関する情報を伝える重要な手段となっている可能性をうかがわせる。

 

多様なコール

ザトウクジラの歌は徹底的に調べられてきたが,クジラのコミュニケーションについてはまだ知られていないことのほうがずっと多いだろうと,この研究を報告した論文の主執筆者となったコーネル大学の海洋生態学者フルネ(Michelle Fournet)はいう(研究実施時にはオレゴン州立大学に所属)。

 

「クジラは繁殖以外のことについて話す場合にはコールを使うとされている」とフルネは説明する。典型的にはたった数秒で終わる短い発声で,非常に多様なことから,「モーン(うめき)」や「スクイージー(窓ふきワイパーの音)」「シュリーク(金切り声)」「グラウル(うなり声)」など,それらしい呼び名がついている。相手のクジラが数km離れていても聞き取ることができる。

 

35年にわたる録音を比較解析

フルネらは1976年から2012年の間にアラスカ南東沿岸で採録された115時間近い記録音声を収集した。古い録音については「もう何年も聞いた人はいなかった」という。それらは現在生きている若いクジラの曽祖母や曽祖父の声だといえるだろう。

 

 

フルネらはこれらのコールの持続時間と周波数を解析し,16のタイプに分類した。うち12タイプは最も古い録音と最新の録音の両方に含まれていた。また,16タイプすべてが少なくとも30年にわたって繰り返し発声されていた。昨年9月のScientific Reports誌に報告。(続く)

 

続きは現在発売中の2019年5月号誌面でどうぞ。

 

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