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フェイク尿の問題〜日経サイエンス2019年4月号より

偽物の尿サンプルを見破るには…

 

 困ったことに,米国では詐欺師が医師をだましてヒドロコドンなどの鎮痛剤を処方してもらうために,商業的に売られている偽の尿が使われている。そうして得た薬は詐欺師が自分で乱用するか,違法に販売される。この合成尿は患者がオピオイド(麻薬性鎮痛薬)や乱用薬物を使用していないかどうかチェックする検査をかいくぐるためのもので,ミシシッピ大学医療センターの臨床化学・毒物学科長カイル(Patrick Kyle)は「うちの病院でもこの手の製品の包装材や容器がトイレで見つかることがある」という。

 

カイルと同僚の病理医カウアー(Jaswinder Kaur)はこの状況に対処すべく,チョコレートやコーヒー,タバコなど合法的な嗜好品の成分に着目して本物の尿とフェイク尿を見分ける方法を考案した。

 

普通に含まれている物質に注目

偽の検体を特定する従来の方法は,尿の酸性度と密度を測定したり,クレアチニンという代謝産物の濃度を調べたりするものだった。しかし,一部の合成品はそれらの検査をパスするようになったとカイルはいう。

 

これに対し,昨年10月にミネアポリスで開かれた法医学毒性学会(SOFT)で報告された新方法は,尿に普通に含まれる4種類の物質を探す。カフェインとテオブロミン(どちらもチョコレートや紅茶,コーヒーなどに由来),コチニン(ニコチンの分解産物),そしてウロビリン(ヘモグロビンの分解産物で,尿の黄色のもと)だ。この方法では,液体クロマトグラフィーを用いて尿の成分を分離する。インクで文字を書いた紙に水をたらすとインクが複数の色に分かれてにじむのと同じ原理だ。その後,分離された化合物を質量分析計にかけ,分子量別に同定する。

 

カイルらは4つの検体グループについてこれら様々な物質を調べた。1つめは監視下で採取した100人分の尿検体。2つめは鎮痛剤を求めている人の尿100検体で,監視なしで採取されたもの。3つめは失業中の求職者200人の尿検体で監視なしで採取,最後は市販の合成尿10検体だ。

 

監視下で採取された尿検体はいずれも,4つの検査対象物質のうち少なくとも1つは陽性になった。これに対し鎮痛剤グループでは3検体,求職者グループでは2検体ですべてが陰性となり,合成尿では4種の物質を1つでも含むサンプルは皆無だった。結果が陰性だからといって犯罪行為の証拠にはならないが,疑いを示すと解釈できるとカイルはいう。そうした場合には,「その人からもう一度採尿して調べるのがよいだろう」。(続く)

 

続きは現在発売中の2019年4月号誌面でどうぞ。

 

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