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氷のノクターン〜日経サイエンス2019年3月号より

ヒマラヤの氷河が夜間に割れて融解を加速しているようだ

 

北海道大学にいる地球科学者のポドリスキ(Evgeny A. Podolskiy)が2017年10月に初めてヒマラヤを訪れたときに最も驚いたのはエベレストの壮大な景色ではなかった。現地で研究生活を送る間に彼が衝撃を受けたのは,毎夜とどろく大きな反響音だった。

 

「氷が割れていたのだ」という。ポドリスキはグリーンランドやアルプスなど世界中のいくつかの氷河環境で研究した経験があるが,「こんなことは初めてだった」。北極圏で観測されたとする逸話が1つあるものの,夜間にそうした氷河の破砕が発生した科学的な記録はない。

 

これら氷でできた水源に依存している10億人以上のアジアの人々にとって,この破砕は悪い知らせだ。「こうした損耗が毎日繰り返されると,氷河が脆くなり,融解しやすくなる可能性がある。やがては使える水の量が減るだろう」とポドリスキはいう。

 

破砕の原因を突き止めるため,ポドリスキらはネパール東部にあるトラカルディン・トランバウ氷河系の全域に地震計を設置した。同種の試みはヒマラヤでは初めてだ。この結果,チームは興味深いパターンに気づいた。氷が割れる震動は瓦礫に覆われていない氷の表面から来ていた。また,夜間に気温が大きく下がった場合ほど,震動が強かった。去る9月のGeophysical Research Letters誌に報告。

 


ネパールのトラカルディン・トランバウ氷河系:Credit: Evgeny A. Podolskiy

 

対照的に岩屑の層で覆われた氷はほとんど音を発することがなく,氷上の瓦礫が60cmを超える場合は完全に無音だった。「この瓦礫は実質的に,氷に周期的な膨張と収縮を引き起こす温度変化から氷河を守っている」とポドリスキはいう。「標高の高い場所で起こるように気温が急低下すると,保護層のない氷が急激に収縮して割れてしまう」。(続く)

 

続きは現在発売中の2019年3月号誌面でどうぞ。

 

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