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携帯の電波で霧発生を予測〜日経サイエンス2019年2月号より

ノイズ同然の情報から宝を掘り出した

 

霧は重大な衝突事故につながり,空港や埠頭,高速道路では特に被害が大きくなる。視界の状況をリアルタイムで監視すれば安全性が高まり,運輸部門だけでも数千万ドルの損害を避けられるだろう。だが衛星や視界センサー,目視など在来の方法は,空間分解能の低さや高い費用,監視が最も重要な地表近くでの感度が低いといった問題がある。

 


Fernando Garcia

これに対し,コーネル大学にいた工学者のデイビッド(Noam David)とガオ(H. Oliver Gao)は,携帯電話の基地局から発信される電波信号を利用して霧につながる大気条件を検知する方法を開発した。

 

携帯電話の通信データはアンテナ塔のネットワーク内でマイクロ波として伝送されている。そして天気は塔で受信される信号の強度に影響を及ぼす。このため,携帯電話の通信データは霧を低コストで連続監視する手段になる。

 

発生1時間前に予測

デイビッドとガオはこの手法を使い,イスラエルのテルアビブ近郊で最大1時間前に霧の発生を予測することに成功した。彼らは気温と湿度の変化に応じてマイクロ波信号がどう変わるか,そのパターンを特定した。また,霧の水滴が信号を直接弱める効果をもとに,上空の雲のために明確な衛星画像を得られない場合にも霧を検知できることを示した。衛星画像とは違って,地表の霧と下層雲の区別もつく。2018年1月のJournal of Geophysical Research: Atmospheres誌と8月のNatural Hazards誌オンライン版に報告。

 

携帯電話網は世界中に張り巡らされているので,この方法はほとんどの地域で容易に利用できるだろう。「原理的には,既存のインフラを日々の霧発生の早期検出に利用できる環境がすでに整っている」とデイビッドはいう。「データはリアルタイムで受信可能なため,霧の発生を短期予測して事前に警報を出せるだろう」。彼はこの方法を世界各地で厳格にテストし,その限界を見極めることを提唱している。

 

今回の研究は霧の発生に先立つ微妙な状態を検知できることを示した。カリフォルニア大学サンタバーバラ校の環境科学者ケイラー(Kelly Caylor,この研究には加わっていない)はこれを,かなり大きな前進だと評価する。「通常はノイズと考えられているもののなかに,これほどの信号を見つけた。これは注目すべきことであり,実に満足がいく」。■

 

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