質量標準,いよいよ再定義〜日経サイエンス2018年12月号より
SI基本単位の改定が近く評決される
キログラムの重さが減っている。1kgの質量を定義する公式の物体は,139年前に白金とイリジウムの合金で作られた小さな円筒で,パリ近郊の3重に施錠された保管庫のなかにある。極めて貴重なので,科学者がこれを保管庫から取り出すことはめったにない。その代わり,「実用標準器」というコピーが使われる。だが,本当の国際原器を最後に点検した際,これが他のすべての実用標準に比べて1億分の5ほど重いことがわかった。実用標準器は天秤に載せられるたびに数個の金属原子を失ってきたのだ。キログラムが物体ではなく基本定数に基づいた計算によって近く定義し直されるのは,これが1つの理由だ。
「標準を物体によって定義し,その物体を保存する必要がある限り,この種のことがどうしても起こる」と,米国立標準技術研究所(NIST)の物理学者で国際単位系(SI)を監督する国際度量衡委員会のメンバーであるモア(Peter Mohr)はいう。「これに対し,基本定数は時間がたっても変化しない」。
すべての単位が自然定数に準拠へ
キログラムの再定義は,SI基本単位のすべてを自然定数によって定めようと計画されている大がかりな改訂の一部だ。57カ国の代表が11月中旬にフランスのベルサイユで開く会議で改訂について投票し,新ルールが承認される見通し。キログラムのほか,電流のアンペアと温度のケルビン,物質量のモルが新たな定義を得ることになる。これら4つはそれぞれ順に,プランク定数,電気素量,ボルツマン定数,アボガドロ定数に基づく定義に変わる。
これらの定数はどれも実験室での計測によって値が求められ,その測定値は本来的にいくらかの不確実性を含んでいる。だが票決が予定通りにまとまれば,国際単位系を使っている各国は最良のデータに基づいて各定数の数値を固定の値に定めることに合意し,それらを用いて基本単位を導出することになる。
再定義の後,従来のキログラム原器はどうなるのか? 科学者たちはキログラム原器を博物館にしまいこむのではなく,時間とともにどう変わっていくかを調べ続ける計画だ。「これらの原器には何度も精密測定されてきた長い歴史がある」と米国立標準技術研究所の物理学者シュラミンガー(Stephan Schlamminger)はいう。「測定を続けないのは無責任というものだろう」。■
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