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脱水状態の蚊はよく刺す〜日経サイエンス2018年10月号より

吸った血で渇きをいやしているようだ

 

蚊は世界で最も致死的な動物だ。伝染病を媒介することで,毎年世界で何十万人もの命を奪っている。メスの蚊だけが刺し,その血液のタンパク質を使って卵を作る。だが,この血液は暑くて乾燥した日に渇きをいやす清涼飲料にもなっているらしい。

 

脱水状態の蚊は水を得やすい環境にいる蚊よりも攻撃的で,宿主にとまって刺す回数が多いことが,最近の研究でわかった。蚊が渇きをいやすことで,病気の拡散も増えている可能性があると,Scientific Reports誌5月号に掲載されたこの研究論文の上級著者であるシンシナティ大学の生物学者ブノア(Joshua Benoit)はいう。

 

一部の蚊は水に卵を産むので,湿った環境のほうが蚊の媒介する病気が多くなると長い間考えられてきた。だが最近の研究で逆の可能性が示唆された。干ばつになるとウエストナイル熱などの伝染が増える傾向があるのだ。ブノアらの発見は,直観に反したこれらの発見を説明する一助となる。

 

「『湿っていると蚊が増えて伝染病も増える』というほど話は単純ではない」とブノアはいう。

 

偶然の出来事をきっかけに

ブノアらが蚊の吸血行動に脱水が及ぼす影響について関心を持ったのは,偶然の出来事による。ある研究者が水を与えずにいた蚊の入った容器を落とした際,それらの蚊が通常よりもはるかに勢いよく襲いかかってきたのだ。

 

そこで,黄熱かジカ熱,ウエストナイル熱を媒介する3種類の蚊を調べた。水と蜜(蚊が好む糖の補給源)の入ったケージとそれらを欠いたケージに数百匹の蚊を入れ,温度や湿度を様々に変えて,蚊が“宿主”を刺す頻度を調べた。“宿主”としては,柔軟なプラスチック膜でできた袋にニワトリの血を入れ,表面を人工的な汗でコーティングしたものを使った。

 

水なしの環境にいた蚊の30%が数時間以内に宿主の血を吸った。水がある環境にいた蚊の場合は5~10%だった。「短時間の脱水状態でも大きな違いが生じうる」とブノアはいう。

 

研究に加わらなかったバージニア工科大学の昆虫学者ラホンデーレ(Chloe Lahondere)は,この「非常に興味深い」発見は実際の感染症の伝染率の予測に応用できるという。「これらの媒介昆虫と効率よく戦う新手段を開発するには,その昆虫の生態をよく理解することが重要だ」。■

 

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