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オランウータンはお医者さん〜日経サイエンス2018年7月号より

手足の痛みを治すのに植物の抽出物を使っている

 

医学は人間だけの専売特許ではない。昆虫から鳥,ヒト以外の霊長類に至る多くの動物が,感染症などの病気を植物や鉱物を使って自分で治療することが知られている。ボルネオ自然財団(BNF)の行動生態学者モロー=バーナード(Helen Morrogh-Bernard)はボルネオ島のオランウータンを数十年にわたって調査し,これまで知られていなかった方法で植物を薬として使っている証拠を発見したという。

 


IMAGE: Lip Kee

モロー=バーナードらは2万時間を超える観察の間に,10頭のオランウータンがときどき,ある特定の植物(ふだんは食べないもの)をかみつぶして泡立て,それを自分の毛皮にこすりつけるのを発見した。オランウータンはこの調合薬を腕や脚に塗りつけ,長いときには45分間もマッサージした。この行動はヒト以外の動物が局所鎮痛薬を使うことを示した初の実例だと,研究チームは考えている。

 

鎮痛作用

ドラセナ・キャントレイ(Dracaena cantleyi)というこの植物を,地元の人々も使っている。葉柄つきの葉を持つごく普通の低木で,うずきや痛みを治すのに使われる。モロー=バーナードと共同研究にあたったチェコ科学アカデミーとパラツキー大学,ウィーン医科大学の研究者は,この植物の化学成分を調べた。炎症や痛みの原因となる免疫応答物質のサイトカインを生じるように人工的に刺激を与えたヒト培養細胞に,この植物の抽出物を加えた。すると数種類のサイトカインの産生量が減ったと,昨年11月のScientific Reports誌に報告している。

 

この結果は,炎症を和らげ痛みを治すためにオランウータンがこの植物を使ったことを示していると,エモリー大学のドルード(Jacobus de Roode,今回の研究には加わっていない)はいう。そして,こうした発見は人間の薬物治療に使える植物や化学物質を見つけるのに役立つかもしれないと付け加える。(続く)

 

続きは現在発売中の2018年7月号誌面でどうぞ。

 

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