月に宇宙ステーション〜日経サイエンス2018年4月号より
NASAが新計画を策定中
宇宙探査の新しいページが開かれつつある。米航空宇宙局(NASA)は新たな宇宙ステーションを提案した。議会が予算を認めれば,およそ10年後に月を周回し始めるだろう。主な目的は,将来に人間を火星に着陸させるための基盤を築き,経験を積むことだ。
この「深宇宙ゲートウェイ(DSG)」プロジェクトは米国とロシアを含む国際的な共同事業になりそうだ。宇宙ステーションは地球から約38万kmの月軌道上に位置する予定で,この位置は国際宇宙ステーション(ISS)よりも1000倍遠い。地球磁場による保護の外側になるため,人間や機器に対する深宇宙放射線の影響を測定できる。月面探査の中継点にもなるだろう。人間やロボットを乗せる月着陸船の計画に関してはまだ議論が続いている。NASAの担当官によると,2019年以降に打ち上げられる4基のオリオンロケットによって宇宙飛行士と建築資材を月軌道に輸送する。
だが,この提案には批判もある。2003年のスペースシャトル・コロンビア号の事故の後,NASAは人と貨物を別々に打ち上げることを誓約したが,DSG計画はこの原則に反することになるだろう。また宇宙政策の専門家には,月に関する活動は費用がかさみ,火星に向けたステップというよりも力の分散になりかねないと警告する声がある。このほか,火星までの旅が少なくとも6カ月かかることを考えると,新ステーションで計画されている1カ月間の滞在で人体が深宇宙にどう対応するかを十分に調べられるのか疑問視する人もいる。
ある技術者は,時々起こる予測不能な太陽嵐を懸念する。そうした場合に宇宙飛行士が危険な放射線にさらされるのを避けるには,水の厚い層などの遮蔽体を宇宙ステーションの設計に組み込む必要がある。
これらの懸念にもかかわらず,多くの専門家は月が重要な訓練と検証の場になるとの見方で一致している。宇宙飛行士の訓練だけでなく,有人宇宙飛行を支援する地上活動と機器のテストにも重要だ。「まず月探査を行う必要があるのは明らかだと思う」とヒューストンにある月惑星研究所(LPI)の科学者で月計画の策定に深く関与しているクリング(David Kring)はいう。人類は1970年代以降,月に着陸していない。現世代の宇宙飛行技術者は地球以外の天体の表面での作業の仕方について学ぶ必要があり,「それに最適の場所は3日間の飛行で到達できるところにある」という。■
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