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暗い太陽のパラドックスに新説〜日経サイエンス2018年3月号より

原始微生物の豊かな生態系が地球の温暖化をもたらした

 

太古の昔,太陽は現在よりかなり暗かったとみられるにもかかわらず,原始の地球は氷結していなかったのはなぜか? この「暗い太陽のパラドックス」の謎を解く新説を東京大学などの研究グループが提唱した。太古の海洋における微生物生態系が従来想定よりも豊かな多様性を持っていた場合,当時の大気中のメタン濃度は従来推定よりもかなり高く,その温室効果によってかなりの温暖化が生じた可能性がある。12月11日付のNature Geoscience誌オンライン版に発表された。

 

太陽は宇宙に多数存在する一般的な恒星の1つで,星の進化の標準モデルによると30億年前~40億年前の太古代,太陽光度は現在より20~30%低かったと推定されている。その場合,地球が受ける日射量もその分少なく,地表は0℃以下になり,地球全体が凍結しても不思議はない。

 

しかし,地質学的研究によれば,太古代の地球は氷結するどころか現在より温暖であった可能性が高い。例えば太古代の堆積物に含まれるリン酸塩の酸素同位体比の研究によると,当時の海水温は30℃程度だったと推定されている。同じく堆積物由来のチャートという岩石に含まれる酸素やケイ素の同位体比をもとにした推定によると太古代の海水温はさらに高く,55~85℃と見積もられている。地球全体が凍結した時代が何度かあったことは確かだが,30億年前より古い時代の事例は確認されていない。

 

「太陽は暗かったのに地球が暖かかったのは理論的に考えれば矛盾するのではないか」。1972年,この問題を最初に提起したのは米国の天文学者セーガン(Carl E. Sagan)だ。セーガンはこれを「暗い太陽のパラドックス」と呼び,広く知られるようになった。

 

以来,様々な説が提唱されたが解決に至っていない。温室効果がある二酸化炭素の大気中濃度が現在よりはるかに高ければ説明はつく。しかし古土壌の地球化学的研究によれば,現在の平均気温(15℃)を実現できる濃度よりかなり低かったとみられる。二酸化炭素より強い温室効果を持つメタンの影響も考慮した理論研究があるが,十分な温暖化をもたらすほどメタン濃度が高かったとは考えにくいとされてきた。(続く)

 

続きは現在発売中の2018年3月号誌面でどうぞ。

 

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