SCOPE & ADVANCE

宇宙用のお役立ち酵母〜日経サイエンス2018年1月号より

排泄物を栄養やプラスチックに転換

  

  

宇宙旅行は身軽でなければならない。持っていく食料が少しでも多くなるとロケットの足を引っ張るうえ,必須の食料のなかには米航空宇宙局(NASA)が計画している火星ミッションのような長期間の旅の間に悪くなってしまうものもあるだろう。だが,これを回避する独創的な方法が開発されている。その一例が,宇宙飛行士の尿と息の再利用だ。

 

「ミッションが長期になるほど,宇宙飛行士が出す排泄物は多くなる。問題は,この排泄物をどうするかだ」と,クレムソン大学の化学工学者で合成生物学者のブレナー(Mark Blenner)はいう。ブレナーらは,排泄物を地球に持ち帰るのではなく,酵母によって必須栄養素に転換できることを示した。さらにはプラスチックにして道具を作ることもできる。

 

藻類などの遺伝子を酵母に導入

研究チームはパン酵母の近縁種であるヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)が人間の尿の成分を食べて生きていけることを見いだした。またこれとは別に,人間の息に含まれる二酸化炭素を炭素分の多い栄養素に変換する藻類を育てた。この栄養素を酵母が脂肪酸に変える。ブレナーらは藻類と植物プランクトンの複数の遺伝子を酵母のゲノムに組み込み,これらの脂肪酸をオメガ3脂肪酸(人間の心臓や眼,脳の健康に重要な物質)に“グレードアップ”する酵母を作った。また,別のリポリティカ菌株の脂肪酸生成経路を改変し,ポリエステル樹脂を作り出した。このポリエステルは宇宙での3Dプリンターによる道具作りに使えるだろう。一連の成果は去る8月の米国化学会で発表された。(続く)

 

続きは現在発売中の2018年1月号誌面でどうぞ。

 

サイト内の関連記事を読む