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皮膚をまねた日焼け止め〜日経サイエンス2017年11月号より

合成メラニンの微粒子が皮膚細胞を内側からガード

 

夏の暑い盛り,太陽の紫外線から皮膚を守ろうと,日焼け止めクリームをこってり塗らなければと感じる人が多いが,こうした危険な光線を遮る新たな方法が見つかったようだ。皮膚細胞を内側から保護するメラニンを模擬した微粒子だ。有効性が立証されれば,より優れた局所保護手段の開発に加え,うまくすると特定の皮膚疾患の治療にも利用できる可能性がある。

 

肌を黒くする色素のメラニンは,紫外線がもたらすDNA損傷に対する人体の自然な防御策の一例だ。皮膚の表面下にある特殊な細胞がメラノソームという小器官を作り出す。メラニンを生成・貯蔵・運搬する小器官で,これらがケラチノサイトという細胞に吸収され,細胞核の周りに紫外線を遮断する保護殻ができる。これに対し先天性色素欠乏症や白斑などを患っている人はメラニンの生成が不完全なため,紫外線の影響を非常に受けやすい。

 

人工微粒子のメラノソーム

カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チームは合成版のメラノソームを作るため,脳などに存在する信号伝達化学物質のドーパミンをアルカリ溶液に加えた。これによって,ドーパミンを主体とするポリマーであるポリドーパミンでできた殻と核を持つメラニン様のナノ粒子が生成される。これを人間のケラチノサイトに加えてシャーレ上で培養すると,合成粒子がケラチノサイトに吸収され,自然のメラニンと同様に細胞核の周囲に分布した。

 

「ケラチノサイトは人工のナノ粒子を処理して,細胞核がかぶる一種の帽子に変えることができる」と,研究論文を執筆し現在はノースウェスタン大学に所属する生化学者ジャニシ(Nathan Gianneschi)はいう。この合成物質はメラニンのように皮膚を黒ずませる色素としても機能するが,「単に細胞を満たして黒くしているのではない」という。「細胞の構造を変えているのだ」。

 

このナノ粒子は自然のメラニンと同様に皮膚全体の細胞に輸送されて分布しただけでなく,細胞のDNAを保護した。研究チームはナノ粒子を加えて培養した皮膚細胞を,紫外線に3日間さらした。ナノ粒子を吸収した皮膚細胞の50%が生き残ったのに対して,ナノ粒子なしの皮膚細胞はわずか10%しか生存しなかった。先ごろのACS Central Science誌に発表。

 

メラニン様ナノ粒子が自然のメラニンと同様に働き効果的に細胞を保護することがわかった現在,次のステップは吸収のメカニズムを突き止めることだ。■

 

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