秘密とウソ〜日経サイエンス2017年9月号より
秘密についてあれこれ考えるのはそれを隠す行為よりも心を傷つける
誰もみな秘密を持っている──これは秘密でも何でもない。秘密を守るのは気が疲れるだろうが,それは大半の研究者が長年想定してきたのとは別の理由による。
最近のある研究は「秘密保持」そのものを再定義し,それが抑うつと不安,全般的な不健康につながる理由について新たな説明を与えている。秘密保持とは,他者に何かを隠す行動を実際に取るかどうかにはかかわらず,情報を隠そうとする意図そのものであるという。そしてそのことが,自分は不実であると感じさせて私たちを傷つける。他人が関与していない一人きりの状況下でも。
この発見はコロンビア大学ビジネススクールの心理学者スレピアン(Michael Slepian)らがJournal of Personality and Social Psychology誌オンライン版に先ごろ論文発表した。オンライン調査を通じて合計1200人の米国人に,またニューヨークのセントラルパークでくつろいでいた312人に聞き取り調査によって,秘密にされることの多い38種の行動と個人情報について尋ねた。
これら6回の調査のうち5回で,回答者は平均で13種の情報を現在隠していると答えた(誰にも秘密にしているものが5種)。最も多かったのは浮気な考え(すでに付き合っている相手とは別の人と関係を持つことを考える)やロマンス願望(独身者の場合),性的な行動(ポルノや空想にふける)だった。詳しいデータはwww.keepingsecrets.orgで得られる。
回答者たちは,1人でいるときには,その秘密について考えることが誰かとの会話中に積極的に隠しているときよりも2倍ほど多いと述べた。また秘密に向かって思考が漂流するほど安らぎが損なわれ,不健康になると話した。驚いたことに,第三者に対して積極的に隠す行為自体は,従来の推定に反して,心や健康の安寧にまったく影響しなかった。カップルを対象にオンラインで行った4回の追加調査でも同様の結果が出た。
どうしても秘密を抱えている必要がある場合,マインドフルネス(瞑想法)を実践するか匿名のオンラインフォーラムで禁断の話題を議論するなどして,秘密について1人であれこれ考えるのは避けるのがよいとスレピアンはいう。■
再録:別冊日経サイエンス230「孤独と共感 脳科学で知る心の世界」。