SCOPE & ADVANCE

チップ上に月経周期を再現〜日経サイエンス2017年8月号より

女性の生殖器系の機能を模したオンチップ臓器が作られた

 

女性の生殖器系を調整している精妙なホルモンシグナル伝達を普通のシャーレ上に再現することはできず,女性の健康と生理学の研究は長らく遅れてきた。この問題を解決するため,月経周期を機能的に再現した初の「オンチップ臓器」が先ごろ開発された。反復流産の原因解明や,妊娠調節に関する新研究,他分野の新薬開発に役立つ可能性がある。生殖科学の専門家は,いずれは女性患者の細胞検体をモデル臓器のなかに置いて調べることで最良の治療法を決定できるようにしたいと考えている。

 

ノースウェスタン大学の産婦人科教授ウッドラフ(Teresa K. Woodruff)が率いる研究チームは,ヒトとマウスの複数の生殖器から採取した細胞を,小さな立方体を相互接続した構造のなかで成長させた。チューブと弁,ポンプがシステムに空気と液体を送入し,体内の自然な循環を模擬した。シャーレ上では死んでしまう細胞が,標準的な生殖周期である28日間にわたって生存し続けた。

 

このシステムに下垂体ホルモンを注入し,化学的な情報伝達を始動させた。下垂体ホルモンに反応した細胞が,一般的な月経周期(排卵期も含む)に見られるようにエストロゲンとプロゲステロンを分泌し始め,女性の様々な生殖器で生じるシグナル伝達を再現した。研究チームはまた,受胎直後に起こるホルモンの活動を模擬することにも成功した。健全な妊娠状態がどう維持されるのかを知るためのツールとなる。今年初めのNature Communications誌に報告。

 

このシステムにはマウスの卵巣細胞(ヒトの卵巣と同じホルモンを作る)と,ヒトの卵管,子宮内膜,子宮頸部から取った細胞を使っている。ヒトの肝細胞も入っている。肝臓は多くの薬物を代謝するからだ。この研究は,人体をモデル化する方法を模索するオンチップ臓器に関する数多くの初期研究に基づいている。

 

新システムは生体の完全な代役には程遠い。妊娠を支えるのに重要な胎盤も,炎症反応を起こす系もない。さらに,初期の有害物質への曝露が生殖機能にどう影響するかを調べることもできないと,バンダービルト大学医学部の産婦人科教授オスティーン(Kevin G. Osteen)はいう。だがウッドラフは今回の成果によって,子宮頸部疾患など,細胞の違いのために齧歯(げっし)類をモデルにできない様々な疾患についての新研究が可能になるだろうという。■

 

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