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光電気化学で水素〜日経サイエンス2017年7月号より

耐久性アップで一歩前進

 

水素は現在,原油の改質や,化学肥料に欠かせない原料であるアンモニアを合成するのに使われている。また,グリーン発電の燃料や,自動車やトラックの動力となる環境に優しい燃料電池の燃料としても価値があるだろう。だが,水素は一般に天然ガスを水蒸気で熱して生産されているため,その結果として温室効果ガス排出などの環境問題が生じる。そこで,この工程を再生可能エネルギー源を利用するものに置き換える取り組みが進み,画期的な進展を報告する論文が先ごろNature Energy誌に発表された。

 

新方法は光電気化学(PEC)デバイスを利用する。他の方法よりも効率的に水分子を分解できる可能性がある太陽電池の一種だ。科学者たちは長年,効率と耐久性を兼ね備え費用対効果に優れた光電気化学太陽電池の設計に苦闘してきた。重要な前進として18年前,米国立再生可能エネルギー研究所の電気化学者ターナー(John Turner)がガリウム・インジウム・リンとガリウムヒ素の半導体層からなるデバイスを設計した。これらの材料は他の材料よりも効率的に太陽光を電気に変換する。ターナーの設計は2015年まで,太陽光から水素への変換効率で最高記録を保持していた。だが,使用中にデバイスが酸性溶液にさらされることによってすぐに壊れるため,生産される水素は非常に高価になった。

 

これに対しサンディエゴ州立大学(カリフォルニア州)の化学者グゥ(Jing Gu)らは,酸による腐食を防ぐために半導体層にコーティングを加えた。これらの保護被膜のおかげでターナーの高効率設計の寿命が格段に延び,耐久試験で当初の性能の80%を維持する光電気化学デバイスができた。

 

消費者が自動車の動力や自宅の冷暖房をまかなう水素を自作する“水素経済”社会が今回の技術ですぐに実現するわけではないだろうが,少なくとも,そうした未来が大げさな夢想から現実に近づいた。■

 

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