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幹細胞から腸管組織〜日経サイエンス2017年5月号より

機能する腸が実験室で作られた

 

腸の成長は最初の1cmが最も難しい。特にシャーレのなかで育てる場合は。シンシナティ小児病院医療センターの研究チームはこの難関を突破した。単一系統のヒト幹細胞から神経や筋肉などすべてを備えた一片の腸管の成長に成功したことを最近のNature Medicine誌に報告した。将来,こうした組織は疾患の研究などに使えるようになるだろう。

 

2011年,やはり同センターのチームが腸管組織の成長を発表したが,このときは神経細胞を欠いており,そのため食物を大腸へ送る蠕動(ぜんどう)はできなかった。今回は神経細胞を別に成長させ,それを筋肉や腸の内壁となるように誘導ずみの幹細胞と混ぜ合わせた。すると見事に2cmほどの腸管ができあがった。「発達中の人体と同様,神経細胞はどこに行くべきかを知っていた」と,シンシナティ小児病院で腸管リハビリテーションプログラムの外科部長を務めるヘルムラート(Michael Helmrath)はいう。

 

研究チームはこの組織を生きているマウスの腸管に移植し,成熟させた。それを取り出して電気ショック刺激を加えたところ収縮し,その後も自発的に収縮を続けた。「実に驚くべき機能だ」とヘルムラートはいう。いまや腸管は,腎臓や脳の一部など少数の組織とともに,実験室で育てることが可能な組織の仲間入りを果たしたことになる。

 

ヘルムラートと同僚のウェルズ(Jim Wells)は次に,ブタを用いて長い腸管を作りたいと考えている。最終的には消化器系疾患の患者の腸のコピーを作って疾患の発症メカニズムを観察し,さらには組織を移植して患者を治療したいと望んでいる。「腸管は構造が複雑なので成長させるのが難しい」とウェルズはいう。「だが短期間でここまできたことを考えると,治療に役立つものをいずれは成長させられると思う」。■

 

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