好きなことをするのが一番〜日経サイエンス2016年12月号より
うつ病には行動の活性化が認知行動療法と同程度に有効だ
世界で約3億5000万人がうつ病に苦しんでいる。様々な治療法があるが,最も確実な科学的裏づけがあるのが認知行動療法(CBT)だ。本人の思考パターンに注目し,問題のある思考パターンを患者自身が認識して修正するように訓練する。いわば患者を「内側から」変えていく方法だ。
だが最近,別の選択肢が現れた。行動活性化療法(BA)という方法が認知行動療法と同じくらい有効であることを示す研究結果が続々と報告されている。
行動で気分を変える
行動活性化療法は本人の思考ではなく行動を修正することを重視する治療法で,いわば患者を「外側から」変えるものだ。「行動と気分が結びついているという考え方に基づいている」と,英エクセター大学で公共医療を研究しているリチャード(David Richard)はいう。
例えば患者が家族と自然を大切に考えている場合,本人に孫と公園を毎日散歩するように勧める。そのように行動すれば,外の世界と関わりを持つこと(うつ状態の人にはこれが困難な場合が多い)に対する報酬が増し,喪失をくよくよ考えるといった後ろ向きの過ごし方に代わる前向きな行動が可能になるだろう。行動活性化療法そのものは数十年前からあり,一部の要素は認知行動療法にも取り入れられているが,単独の治療法としてどの程度の効果があるのかを評価できるほどの規模と厳密さで調べた臨床研究は最近までなかった。
リチャードは英国の3つのメンタルヘルスセンターの研究者18人の協力を得て,行動活性化療法と認知行動療法を比較するこれまでで最大規模の臨床研究を行った。440人のうつ病患者をどちらかの療法に割り当てて16週間治療し,治療開始から6カ月後,12カ月後,18カ月後の時点で患者の病状を追跡調査した。この結果,どちらの治療法も効果は同等で,1年後の段階で患者の2/3は症状が50%以上軽減したと報告した。この結果は去る7月にLancet誌電子版に報告された。(続く)
続きは現在発売中の2016年12月号誌面でどうぞ。