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乳房にマイクロバイオーム〜日経サイエンス2016年12月号より

乳がんリスクを左右している可能性も

 

人体のマイクロバイオーム(人体で繁殖している細菌群)に関する研究が爆発的に増えているが,その主役は腸内細菌叢だ。だがApplied and Environmental Microbiology誌に掲載された最近の研究によると,細菌は女性の乳房組織にも存在し,やはり健康に重要な影響を与えているらしい。「乳房組織内にいる細菌は少量ではあっても,乳がんのリスクを左右している可能性がある」と,論文の主執筆者でカナダにあるウェスタンオンタリオ大学で細菌学・免疫学の教授を務めているリード(Gregor Reid)はいう。

 

乳がん組織に特徴的な細菌群

米国女性の8人に1人は一生の間に乳がんと診断されるが,ほとんどの場合,発病の原因は不明だ。年齢,遺伝的な素因,環境変化との関連が考えられている。そして,細菌の存在がそうした環境要因の1つになっている可能性をうかがわせる研究結果が蓄積してきた。例えば早くも1960年代に,授乳によって乳がんのリスクが低下する傾向があることを示した研究がいくつかあり,その後の研究によって,これは母乳が有益な細菌の成長を助けているためである可能性が示唆されている。

 

リードらはこの可能性を確かめることにした。良性または悪性の腫瘍のために乳腺腫瘤摘出術や乳房切除術を受けた女性58人の乳房組織試料と,健康だが乳房縮小または豊胸手術を受けた女性23人の組織試料について,試料内に見られる細菌のDNAを解析した。この結果,乳がん患者では腸内細菌科(エンテロバクター科)やブドウ球菌属,バチルス属などの細菌が多く,乳がんではない女性ではラクトコッカス属や連鎖球菌属などの細菌が多かった。(続く)

 

続きは現在発売中の2016年12月号誌面でどうぞ。

 

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