2016年10月5日
2016年ノーベル化学賞:分子機械を設計・合成した欧米の3氏に
2016年ノーベル化学賞は「分子機械の設計および合成」によって,仏ストラスブール大学名誉教授のJ.-P. ソヴァージュ(Jean-Pierre Sauvage,72歳),米ノースウェスタン大学教授のJ. F. ストッダート(J. Fraser Stoddart,74歳),蘭フローニンゲン大学教授のB. L. フェリンハ(Bernard L. Feringa,74歳)の3氏に贈られる。
微小機械というと半導体や金属を超微細加工したマイクロマシンやナノマシンを連想するが,今回の授賞対象となったのは物質の分子を個々の“部品”に使って組み立てえるタイプの機械だ。3氏はこの分野で先駆的な業績を上げた。
ソヴァージュは複数の環状分子が鎖のようにつながった「カテナン」と総称される分子集合体を効率的に合成する方法を1983年に開発した。カテナン自体は1960年に米国の研究者が初めて報告したものだが,実際に作るのは非常に困難だった。ソヴァージュの合成法によってカテナンの研究が一気に加速した。
![]() ソヴァージュらが合成したカテナン |
ストッダートは1991年に「ロタキサン」と呼ばれる分子集合体を合成した。環状分子の穴に棒状の分子を通し,その両端に嵩の高い膨らみを持たせて,穴から抜けなくした構造。ダンベルの軸の部分にリングがはまったような格好で,軸に沿ってリングを動かすことができる。ストッダートはこれを用いて,複合分子の一部が軸に沿って上下に動くエレベーターのような機械や分子筋肉を作った。
フェリンハは1999年に「分子モーター」を製作した。2枚の回転翼を組み合わせたような複合分子で,光や熱の刺激をうまく加えると,片方の回転翼部分が他方に対して一定の方向に回り続ける。このモーターを動力にして動く「ナノカー」も作ってみせた。
これらの分子機械を合成し動かすうえでは様々な化学反応が関与している。何かに応用されて役立つのはこれからだが,新素材やセンサー,エネルギー貯蔵システムなどを開発するのに利用されるだろうという。
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