地下の生命圏はどこまで?〜日経サイエンス2016年11月号より
「ちきゅう」が陸上研究施設と連携して室戸岬沖で掘削調査
地球の表層,とりわけ地球表面のかなりの割合を占める深海底下には微生物からなる広大な生命圏が存在するとされるが詳細は不明で,生命圏と無生物域の境界となる生息限界の環境,例えば温度などはよくわかっていない。この問題を調べるため,地球深部掘削船「ちきゅう」による掘削調査が四国沖で11月まで行われる。
掘削地点は高知県室戸岬の南東約120km,フィリピン海プレートが陸側プレートに沈み込んでいる南海トラフの水深約4760mの深海底。海底下約1200mまで掘削して試料を採取した後,掘削孔内に温度計を設置して深さごとの地中温度を調べる。この地域は南海トラフ地震の震源域なので,調査は震源断層を避け,黒潮に耐えながら行うことになる。日本も中心メンバーである国際深海科学掘削計画(IODP)の一環で,海洋研究開発機構(JAMSTEC)など8カ国の研究機関から約30人の研究者が加わる。
今回の調査の最大の特徴は陸上の研究施設との連携だ。「ちきゅう」はいわば洋上の研究所で,掘削試料を様々な分析機器で調べることができるが,それでも不十分な点がある。そこで今回は採取した掘削試料をヘリコプターで,IODPの研究拠点「高知コアセンター」に速やかに運んで分析する。
地上の微生物が紛れ込まないようスーパークリーンルーム内で作業を行い,地下深部の高温高圧環境を再現した培養装置で,120℃を超えるような状況下での生命活動の有無を調べる。また試料からDNAを抽出し,次世代シーケンサーを使って遺伝子解析を実施する。スーパークリーンルームは施設規模の点から,次世代シーケンサーは非常に振動に弱い点から,「ちきゅう」には備えられていない。
海底下生命圏については,「ちきゅう」による下北半島東方約80km,水深約1200mの深海底掘削調査で,これまで知られている中では最も深い海底下約2500mで微生物群集が発見されている。海底下1200~2500mでは全体的に微生物密度が非常に低く,このあたりが生命が存在し得る限界域になっているとみられた。ただ掘削した最深部の海底下約2500mでも温度は約60℃と,微生物が十分,生息可能な温度だったため,より高温の地下環境での調査が待たれていた。
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