遺伝子注入で絶滅回避〜日経サイエンス2016年10月号より
クロアシイタチの遺伝的多様性を高めるため失われた遺伝子を再導入する試み
1987年に18匹しか確認されていなかったクロアシイタチが,飼育下繁殖と集中管理のおかげで,現在では数百匹に増えた。しかし,そうした少数から再増殖した他の多くの生物種と同様,基本的にはどの個体も半同胞(片方の親が同じ)だ。遺伝的にクローンに近く,遺伝性障害や病原体,環境変化に対して同様の脆弱性を持っているため,悪条件にさらされると全滅しかねない。
クロアシイタチの遺伝的多様性と長期的存続の可能性を高めるため,米魚類野生生物局(FWS)は思い切った手段を検討している。現在の集団が失ってしまったDNAを動物園や博物館に保存されている標本から取り出し,現存の個体に再導入する。この計画はマンモス復活構想ほどには突飛ではないだろうが,死んだ個体とともに失われた遺伝子を復活させるという点では同じであり,したがって容易ではない。
すべては7匹の子孫
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クロアシイタチの窮状はまったくひどいものだった。30年近く前にFWSが米国のプレーリーから保護した18匹のうち,繁殖して遺伝子を次世代に残せたのは7匹だけだった。「現在のクロアシイタチはどれもみなこの7匹の子孫だ」とFWSクロアシイタチ保護センターのフレーザー(Kimberly Fraser)はいう。「7人の人間から生まれた集団がどんなものになるか,想像してみてほしい」。
昨年,ロング・ナウ協会の「リバイブ・アンド・リストア」というプロジェクトから資金援助を受けたチームが,現存のクロアシイタチ2匹のゲノムと,1980年代に死んでサンディエゴ動物園の冷凍動物園に保存されていたオスとメス各1匹のDNA配列を決定した。これらを比較した結果,冷凍保存されていたクロアシイタチには遺伝的多様性が存在しており,クローン技術やCRISPR遺伝子編集などによって現存個体群に再導入できるだろうと考えられる。(続く)
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