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ニュートリノに「CPの破れ」?〜日経サイエンス2016年10月号より

日本主導のT2K実験で突破口が得られた

 

宇宙誕生時,物質と反物質(粒子と反粒子)は等量生み出されたと考えられるが,現在の宇宙に物質(粒子)しか見られないのはなぜか? この謎を解く新たな手がかりが得られた。日本主導の「T2K実験」国際共同研究グループは8月7日,粒子と反粒子の振る舞いの微妙な違い「CP対称性の破れ(CPの破れ)」が素粒子ニュートリノにも存在する可能性を示唆する実験結果を発表した。

 

CPの破れの存在は核子(陽子と中性子)を構成する素粒子クォークについては50年以上前に米国での実験で発見され,CPの破れが生じるメカニズムは「小林・益川理論」によることが日本と米国での加速器実験で2000年代初めに実証された。しかし,クォークのCPの破れだけで,現在の宇宙における物質と反物質の間の大きな不均衡を説明することは到底できない。そのためニュートリノにもCPの破れが存在するとみられているが,実験が非常に困難で,現在に至るも確証は得られていない。今回の実験結果はニュートリノにおけるCPの破れ探索の突破口となる。

 

ニュートリノには電子ニュートリノ,ミューニュートリノ,タウニュートリノの3種類がある。弱い力(原子核の崩壊を生じさせる力)が作用すると例えば電子ニュートリノは電子に,ミューニュートリノはミュー粒子に変わり,それらの逆プロセスもある。ニュートリノは質量ゼロと考えられていたが,1998年,スーパーカミオカンデによる自然界のニュートリノの観測で,ニュートリノが質量を持つことによって起きる「ニュートリノ振動」と呼ばれる現象が発見された。

 

ニュートリノ振動はニュートリノが飛行しているうちに種類が変わる現象だ。例えば電子ニュートリノ→ミューニュートリノ→電子ニュートリノというような変化が起きる。ニュートリノの反粒子,反ニュートリノでも同様の現象が起きるが,CPの破れが存在すれば,種類の変化の仕方がニュートリノとは違ってくる。本当にそうした違いが生じるかどうかを調べているのがT2K実験だ。

 

ニュートリノ振動を精密観測

T2K実験は日本を含む11カ国61の研究機関から約500人の研究者が参加する国際共同実験で,日本は高エネルギー加速器研究機構(KEK)や京都大学,東京大学などの研究者と学生合わせて約100人が中心メンバーとなっている。実験は2010年に始まり,現在も続いている。(続く)

 

続きは現在発売中の2016年10月号誌面でどうぞ。

 
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