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病的な好奇心〜日経サイエンス2016年9月号より

知りたいという欲求は想像以上に強力

 

なぜ人は,昔の恋人のいまの交際相手を知りたがり,自分に対するネット上の批判的コメントを読みたがるのか? 心が傷つくに決まっているのに。Psychological Science誌に掲載された最近の研究によると,人間には不確実性を解決したいという心理的欲求が生まれつき備わっているからだ。この欲求は非常に強いので,知ったら自分が傷つくとわかっていても,好奇心を満足させようとする。

 

いやでも知りたいその秘密

シカゴ大学ビジネススクールとウィスコンシン大学ビジネススクールの行動科学者チームは学生たちを被験者に一連の実験を行い,好奇心を満たすために嫌悪刺激に自ら進んで身をさらす傾向を調べた。まず,山積みにしたシャープペンシルを各被験者に見せ,前の実験で使ったペンだと説明した。シャープペンシルの半分は,芯を出すためにノックすると電気ショックが発生する仕掛けになっている。

 

27人の学生にはどのペンに仕掛けがあるかを教え,別の27人には一部のペンは電気ショックを出すとだけ説明した。そのうえで学生を部屋に1人きりにしたところ,どれが電気ショックペンかを知っている学生よりも知らない学生のほうが,多くのペンをノックして多くの電気ショックを食らった。黒板に爪を立てて出す音や嫌われものの昆虫の写真など,電気ショックの代わりに別の嫌悪刺激を用いた実験でも,この効果が再現された。

 

自滅を避ける知恵

知りたいという欲求は食欲や性欲と同じくらい人間に深く根づいていると,この研究論文の共著者であるシカゴ大学のシー(Christopher Hsee)はいう。好奇心はよい本能だとされることが多い(例えば科学の進歩につながりうる)が,裏目に出ることもある。「好奇心が自己破壊的な行為をあおる場合があるという発見は意義深い」と,好奇心の科学的研究の草分けであるカーネギー・メロン大学の経済学と心理学の教授ローエンスタイン(George Loewenstein)は評価する。

 

もっとも,病的な好奇心を抑えることは可能だ。最後の実験では,不快な写真を見た後に自分がどう感じるか予測するよう言っておくと,被験者はそうした写真をあえて見る選択をしなくなる傾向を示した。自分の好奇心を追求した結果を事前に想像することが,好奇心追求に価値があるかどうかを見極めるのに役立つことを示している。

 

「長期的な結果を考えることが,好奇心から生じうる悪影響を軽減するカギだ」とシーはいう。つまり,ネット上の悪口コメントは読むなということ。■

 

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