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胃薬が起こす腸トラブル〜日経サイエンス2016年7月号より

腸内細菌の多様性を損なって問題を生じるようだ

 

米国では2014年,消化不良や消化性潰瘍,逆流性食道炎(胃酸の逆流)など胃の諸症状を治療するために胃酸分泌抑制剤であるプロトンポンプ阻害薬(PPI)が1億7000万件以上も処方された。この薬は米国の処方薬トップ10に入り,市販もされている。

 

だが調査によると広く過剰使用されているとみられ,その場合,効果よりも害が大きい可能性がある。実際,最近の2つの研究から,プロトンポンプ阻害薬が腸内細菌を変え,危険な消化管感染症のリスクを高めていることがわかった。この薬の他の副作用に注目した研究も数多くある。

 

プロトンポンプ阻害薬の服用者が消化管感染症になりやすい理由を解明するため,オランダのフローニンゲン大学とマーストリヒト大学医学センター,ブロード研究所(ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学の共同研究機関)のチームは,1815人の糞便中に見つかった細菌のDNA配列を解析した。これにより,当人の腸内にいる細菌のスナップショットが得られる。プロトンポンプ阻害薬の服用者と服用していない人の細菌構成を比較したところ,服用者のほうが腸内細菌の種類が少なかった。

 

この差はプロトンポンプ阻害薬服用者に消化管症状がない場合にも存在しており,単なる病気の結果ではなく,薬が原因だと考えられる(プロトンポンプ阻害薬は集中治療室患者のストレス性潰瘍を予防するために処方されることもある)。研究結果はGut誌に報告された。

 

ロンドン大学キングスカレッジとコーネル大学,コロンビア大学の研究チームも同様の試験で同じ結果を得たほか,個別の患者にプロトンポンプ阻害薬を4~8週間投与した前後で腸内細菌を比較した小規模の介入試験でも同様の結果を得た。

 

酸性度低下で腸内環境にアンバランス

プロトンポンプ阻害薬が腸内の酸性度を下げ,この環境が特定の細菌にいくらかの影響を及ぼすため,腸内細菌の多様性が制限されるようだ。そしてこのアンバランスが感染症につながる恐れがあるのだと,フローニンゲン大学の胃腸病学者ウィールスマ(Rinse Weersma)はいう。この薬が「マイクロバイオーム(微生物叢)を変え,サルモネラ菌やクロストリジウム・ディフィシルが増殖するニッチを作り出している」可能性があるという。(続く)

 

続きは現在発売中の2016年7月号でどうぞ。

 

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