細菌も電気通信で“会話” 〜日経サイエンス2016年5月号より
脳細胞と同様に電気信号を利用している
細菌は太古からいる生物だが,「原始的」と呼ぶのはよそう。細菌は単細胞であるにもかかわらず,集団行動が可能だ。隣の仲間と栄養を分け合い,仲間に合わせて動き,コロニー全体の利益のために自殺までする。こうした集団行動を可能にしているのは細胞から細胞へ伝わる化学物質で,このシグナル伝達プロセスは「クオラムセンシング」と呼ばれている。
さらに,細菌は別の方法でも“会話”できるらしいことが最近の研究でわかった。電気的なシグナル伝達による方法だ。そうしたコミュニケーションは多細胞生物でしか生じないとこれまでは考えられていた。
イオンチャネルが信号を媒介
2010年,カリフォルニア大学サンディエゴ校の分子生物学者スエル(Gürol Süel)らは土壌細菌の枯草菌(Bacillus subtilis)が100万個以上の大規模群に増殖してもうまく生きていくメカニズムを調べ始めた。その結果,コロニーが臨界サイズに達するとコロニーの端にいる細菌が増殖を止めて,コロニー中心部の細菌に十分な栄養が届く余地を残していることがわかった。
だが,この結果からある疑問が生じた。端にいる細菌はどのようにして分裂停止のメッセージを受け取るのだろうか。スエルらは最近のフォローアップ研究で,この場合の細胞間シグナルが電気信号であることを突き止めた。メッセージはイオンチャネルを介して伝えられる。イオンチャネルとは細胞表面にあるタンパク質で,荷電粒子(この場合はカリウムイオン)が細胞に出入りする流れを制御している。このチャネルの開閉によって隣の細胞の電荷が変化し,それが荷電粒子の放出を誘導して,これによって電気信号がさらに隣の細胞へと次々に伝わっていく。(続く)
続きは2016年5月号誌面でどうぞ。
再録:別冊日経サイエンス221「微生物の脅威」