SCOPE & ADVANCE

宇宙のクラゲ〜日経サイエンス2016年4月号より

魅惑的な“クラゲ銀河”は銀河団の衝突で生まれたらしい

 

IMAGE:NASA/ESA/CXC

クラゲは海と同様に天空にも泳いでいるようだ。近年,この奇妙な動物に似た渦巻銀河がいくつか発見された。ガスと若い星々からなる青い“足”を長く伸ばしている。こうした興味深い銀河をさらに探索した最近の研究で,その起源に関する知見が得られた。

 

天空のクラゲを特定するため,ハワイ大学マノア校の天文学者マクパートランド(Conor McPartland)とエベリング(Harald Ebeling)らは高温ガスのなかに多数の大型銀河が埋め込まれた63の銀河団の内部を探した。不運な渦巻銀河が銀河団に落ち込み,銀河団の高温ガスが渦巻銀河のガスを剥ぎ取り,新星を生む長い帯ができることで“クラゲ銀河”になることがすでに知られていた。若い星のうち最も明るいものは青く輝くので,クラゲの触手にあたる部分も青くなる。合計で9個のクラゲ銀河が新たに見つかった。

 

移動方向と位置が示す異常

ただし,すべてが予想通りだったわけではない。「おかしなことに気がついた」とエベリングはいう。「これらの銀河は銀河団の中心に向かって移動しているのではない」。クラゲ銀河は銀河団の重力のために銀河団中心へ向かうはずだった(クラゲ銀河の移動方向は後ろに引きずっている触手からわかる)。だが実際にはそれぞれバラバラな方角へ移動していた。同様に,クラゲの所在も奇妙だった。どれも銀河団の外縁部に位置している。

 

こうした観測から,クラゲ銀河の誕生には銀河団どうしの衝突も必要で,一方の銀河団から高速で移動してきた銀河が他方の銀河団の熱いガスを突き抜けているのだろうと考えられる。この混沌とした状況のなかでは,銀河はあらゆる方向へ突進するはずで,観測結果と一致する。1月にMonthly Notices of the Royal Astronomical Society誌に報告された。

 

この説を検証するため,研究チームはクラゲ銀河を擁する銀河団のガスを調べる計画だ。銀河団ガスは非常に高温でX線を放出しているが,衝突説の場合,クラゲ銀河を擁する銀河団は銀河団どうしの衝突によって特に高温になっているはずだ。X線観測によってこの説が確証されれば,銀河クラゲは宇宙暴力の被害者ということになる。とてつもない衝突の結果として生まれた後,自分のガスをすべて失い,楕円銀河へと変わる運命にある。ガスを欠き,星を生む美しい渦巻き腕を持たない味気ない天体だ。■

 

ほかにも話題満載! 現在発売中の2016年4月号誌面でどうぞ。

 

サイト内の関連記事を読む