交代で歌うコウモリ〜日経サイエンス2016年2月号より
ある種のコウモリが求愛歌を時間交代制で歌う理由
ニュージーランドでは,夕暮れどきになると森に甲高い鳴き声がこだまする。ツギホコウモリのオスが一晩で10万回も発する求愛の歌声で,一晩にこれほど多くの求愛の声を上げる動物はほかにない。そして求愛専用の特別な止まり木で歌う。
だが1匹がそこでずっと歌い続けるワンマンショーではない。オークランド大学(ニュージーランド)のトス(Cory Toth)は,この夜行性哺乳動物の行動を3年間にわたって調べ,ニュージーランドの北島で観察した12の止まり木のうち半分近くで,オスが時間交代制で舞台を務めていることを突き止めた。「1匹のオスが歌い終えて舞台を去ると,3秒後には別のオスが止まり木にやってきて歌い始める」とトスはいう。1つの止まり木で一晩に2匹ないし5匹のオスが,それぞれ2~3時間ずつ鳴く。
交代によってエネルギーを節約?
止まり木を1匹が一晩中独占するよりも,複数で共用したほうが多くの鳴き声を発信でき,通りがかりのメスが立ち寄るチャンスが大きくなる。行動生態学者のトスは当初,時間交代制をとるコウモリたちは相互に血縁関係があり,自分たち特有の遺伝子群を子孫に残すために協力しているのだろうと推測した。だが,4つの止まり木の3つまででオスたちに血縁関係がまったくないか遠縁であることがわかり,トスはコウモリの身体サイズに目を向けた。交代で舞台に立つオスは,1匹だけで歌うオスよりもかなり大きいのだ。
身体の大きなオスは日常生活でエネルギーをより多く消耗するため,夜間は時間交代で鳴くことでエネルギーを節約しているのかもしれないとトスはいう。実際,コロニー内の繁殖の成功率はコウモリのサイズによらずほぼ同じであることがDNA解析によって明らかになった。大きなコウモリが小さなコウモリに負けずに生殖するうえで,止まり木の共有が役立っていることを示唆している。
ツギホコウモリはニュージーランドに残るたった2種の固有陸生哺乳動物の1種で(もう1種はオナガコウモリ),絶滅の危機に瀕している。ツギホコウモリの生殖行動に関する知識は保護活動に生かすことができるだろう。■
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