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爆発せずに消える星〜日経サイエンス2016年1月号より

近傍銀河で見つかったこの失踪はブラックホールの誕生なのかもしれない

 

IMAGE:NASA AND ESA

シャーロック・ホームズの物語『白銀号事件』で,この名探偵は起こらなかったことに注目して殺人事件を解決する。真夜中に番犬が吠えなかったという事実だ。天文学者たちはいま,同様の推理を用いてブラックホール誕生を解明しようとしている。宇宙探偵の場合は,爆発しなかった星を探す。

 

太陽より何倍も重い星は,超新星となって生涯を終えることが多い。恒星の重い中心部が重力崩壊することで起こるすさまじい大爆発だ。非常に明るいので,宇宙のどこで起こった超新星爆発も地球上から観測して調べられる。私たちの天の川銀河内で生じた超新星が近代の天文学者によって観測された例はないものの,近隣の銀河で生じた超新星の観測例は数十あり,爆発したもとの星もわかっている。だが奇妙なことに,それらの星はどれも質量が太陽の約17倍以下だ。もっと大質量の星がたくさんあり,それらも超新星爆発で死んでいるはずなのに。

 

爆発せずにブラックホールに?

この奇妙な観測結果はブラックホールによって説明がつくのではないかと理論家たちは考えている。ある種の赤色超巨星が重力崩壊すると,超新星爆発を起こす代わりに直接ブラックホールとなって,崩壊した星をそのままのみ込んでしまう可能性がある。このブラックホール誕生を遠くから見ると,星が単に消えるように見えるだろう。

 

「私たちはこれらを『爆発し損なった超新星』と呼んでいる」と,この過程を理論化したカリフォルニア大学サンタクルーズ校の宇宙物理学者ウーズリー(Stan Woosley)はいう。「さっきまで見えていた赤色超巨星が,いまはもう見えない」。

 

オハイオ州立大学のコハネク(Chris Kochanek)らは2008年,このとらえどころのない星の死を探す方法を提案した。爆発の明るい閃光を探す通常の超新星観測とは異なり,コハネクは約30の近傍銀河を監視して,星が突然消えて奇妙な闇になった区画を探そうとしている。コハネクは2014年,共同研究者のゲルキ(Jill Gerke)およびスタネク(Kris Stanek)とともに,アリゾナ州にある大双眼望遠鏡天文台での観測結果に基づき,爆発失敗超新星とみられる事例を発見したと発表した。NGC 6946銀河にあった赤色超巨星で,一瞬輝いた後に消えうせたようだ。(続く)

 

続きは現在発売中の2016年1月号誌面でどうぞ。

 

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