SCOPE & ADVANCE

歯垢で探る古代人の健康と暮らし〜日経サイエンス2015年12月号より

食べかすから細菌,DNAまで,多くを保存したタイムカプセルに注目

 

 ワリナー(Christina Warinner)が診察している歯のなかで最良のものは,ライマメほどもある大きな歯垢の塊がエナメル質にくっついているものだ。ワリナーは歯科医と同じ道具を使っているが, 歯科医ではない。彼女はオクラホマ大学の人類学者で,バイキングや石器時代の農民などに遅ればせながら歯のクリーニングを施し,昔の人たちの生活について調べている。

 

 できたてのねばねばした歯垢は口のなかのあらゆるものを取り込み,それが固まると植物や花粉,細菌,デンプン,肉,木炭,織物の繊維など様々なものを内部に閉じ込める。最近判明したように,化石化した歯垢は考古学的記録のなかで最も豊富にDNAを含んでいる。「古代のDNAを調べるうえで最大の問題はサンプルの量が少なすぎることだ」とワリナーはいう。歯垢はこの問題を解決する。他の試料に比べ,重量あたりで100倍から1000倍のDNAを含んでいるからだ。

 

 ワリナーの研究室がいま最優先で取り組んでいるのは,世界中の博物館が収蔵している遺骸や各地の遺跡発掘現場で見つかった遺骸から歯垢を採取してDNAのリストを作ることだ。人々の健康と食習慣が歴史を通じてどう変化してきたかを明らかにするために,さらに時代をさかのぼった様々な人へと調査の手を広げつつある。(続く)

 

続きは現在発売中の12月号誌面でどうぞ。

 

 

再録:別冊日経サイエンス219 「人類への道 知と社会性の進化」

 

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