2015年10月7日
2015年ノーベル化学賞:DNA修復機構の解明を先導した3氏に
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2015年ノーベル化学賞は「DNA修復の機械論的研究」によって,スウェーデン人研究者で英フランシス・クリック研究所の名誉グループリーダーを務めているT. リンダール(Tomas Lindahl,77歳)氏,米デューク大学教授のP. モドリッチ(Paul Modrich,69歳)氏,米ノースカロライナ大学教授のA. サンジャル(Aziz Sancar,69歳)氏に贈られる。
生物はみな“生命の設計図”といわれるゲノムをDNAなどの形で保有しており,多細胞生物はそれぞれの細胞のなかに基本的に同じ配列のDNAがしまい込まれている。もちろんヒトも同様で,これらのDNAがきちんと保たれることで生きている。
DNAは外的な影響(紫外線や化学物質,放射線など)で損傷を受けるほか,細胞が分裂・増殖する際に複製ミスが生じる場合がある。これらの損傷やエラーは時として致命的な悪影響につながる恐れがあるが,生物はこれをうまく修復して“正しいDNA”を維持している。
今年のノーベル化学賞受賞者は,このDNA修復の仕組みを分子レベルで明らかにした先駆者たちだ。リンダール氏は1980年代,それぞれの生物個体が同じDNAを維持できているのは何らかの化学的修復機構があるからに違いないと考えて研究を進め,「塩基除去修復」と呼ばれる仕組みを発見した。DNAのどこかの塩基(A,T,G,C)の1つに化学的変化が生じて機能しなくなった際,その傷害のある塩基にDNAグリコシラーゼなどの酵素が作用して取り除く反応だ。
サンジャル氏は紫外線や発がん性物質などによって生じたより大きな損傷を認識・修復する「ヌクレオチド除去修復」を,モドリッチ氏はDNAの複製ミスによって生じたエラーを修復する「DNAミスマッチ修復」という機構を解明した。これらにも多様な酵素が関与している。
こうしたDNA修復の分子レベルでの解明は,がんや遺伝性疾患のメカニズムに迫る研究にも大きな影響を与えている。
詳報は10月24日発売の日経サイエンス2015年12月号で
モドリッチ氏は「バイオファブ・グループ」の一員として合成生物学の最前線を紹介した以下の記事を共著している
「合成生物学を加速するバイオファブ」,P. モドリッチ/D. ベイカーら,日経サイエンス2006年9月号
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