2015年10月6日
2015年ノーベル物理学賞:ニュートリノ振動の発見で梶田隆章博士ら2氏に
2015年ノーベル物理学賞は「ニュートリノが質量を持つことを示すニュートリノ振動の発見」によって,東京大学宇宙線研究所教授の梶田隆章(かじた・たかあき,56歳)氏と,カナダ・クイーンズ大学名誉教授のA. B. マクドナルド(Arthur B. McDonald,72歳)氏に贈られる。
ニュートリノは星の核反応などで大量に生み出されている素粒子だが,極めて軽く電荷も帯びていないので,ほぼすべてのものを素通りしてしまう“幽霊”のような粒子だ。原子炉で発生したニュートリノを検出する1950年代半ばの実験で存在が証明されたが〔この業績で米国の物理学者ライネス(Frederick Reines)は1995年にノーベル物理学賞を受賞〕,素粒子物理学の基幹理論である標準モデルでも説明の難しい面が多く,ニュートリノの質量が完全にゼロなのか,それともわずかでも質量を持つのかが大きな焦点になっていた。
梶田氏とマクドナルド氏はそれぞれ,「ニュートリノ振動」という現象を確認することによって「ニュートリノに質量があること」を決定づけたチームの代表だ。ニュートリノには「電子型」「ミュー型」「タウ型」という3タイプがあり,飛行中にこれらのタイプが変わってまた元に戻る(タイプが振動する)のがニュートリノ振動。理論に基づいて予想された現象で,この変身はニュートリノが質量を持つ場合にのみ起こる。

梶田氏ら東京大学を中心とするチームが用いたのは岐阜県飛騨市神岡の地下にあるニュートリノ検出装置「スーパーカミオカンデ」,一方のマクドナルド氏らの装置はカナダ・オンタリオ州の地下に設置されたSNO(サドベリー・ニュートリノ観測所)。いくつか違いはあるが,どちらも純水などをたたえたタンクにニュートリノが入射してまれに反応した場合に生じる光をとらえる。
両チームはそれぞれ,大気に宇宙線がぶつかって生じるミュー型ニュートリノや太陽から飛来する電子型ニュートリノを観測し,飛来方向(上空から来たものと,反対側から地球を貫いて検出器に到達したものなど)を考慮して解析することで,これらが理論通りの振動を起こして別タイプに変身していることを突き止めた。
実験の具体的内容や意義はこれまで日経サイエンス誌上で詳しく紹介してきたので,それらをお読み下さい(下のリンクを参照)。受賞者の梶田氏およびマクドナルド氏が執筆した記事もあります。
詳報は10月24日発売日経サイエンス2015年12月号で
【授賞業績に関連する本誌掲載記事】
※ノーベル財団お薦め一般向け記事
「ニュートリノの質量の発見」,E. カーンズ/梶田隆章/戸塚洋二, 1999年10月号。【PDF復刻:特価販売中】
「ついに解けた太陽ニュートリノの謎」,A. B. マクドナルド/J. R. クライン/D. L. ウォーク, 2003年7月号【特価販売中】
「特集:ニュートリノ物理学」,2013年8月号
ニュートリノで探る物質の起源 M. ヒルシュ/H. ペズ/W. ポロド
CPの破れとマヨラナ 中島林彦 協力:川崎雅裕/横山将志(ともに東京大学)
宇宙の歴史を見る 中島林彦
別冊日経サイエンス203
『ヒッグスを超えて ポスト標準理論の素粒子物理学』