きょうの日経サイエンス

2015年10月5日

2015年ノーベル生理学・医学賞:大村博士ら熱帯感染症の治療物質を発見した3氏に

2015年ノーベル生理学・医学賞は「寄生虫感染症に対する新規治療物質に関する発見」で北里大学特別栄誉教授の大村智(おおむら・さとし,80歳)氏および米ドリュー大学名誉リサーチフェローのW. C. キャンベル(William C. Campbell,85歳)氏,「マラリアの新規治療法に関する発見」で中国中医科学院教授の屠呦呦(ト・ユウユウ,Youyou Tu,84歳)氏に贈られる。

大村・キャンベル両氏は寄生虫を殺す効果の強い「アベルメクチン」という物質を発見した。大村氏は様々な抗生物質を作り出すストレプトマイセス属の土壌細菌に注目,土壌サンプルから採集した菌を実験室で培養することを通じて,特に有望な50種ほどの菌株を選抜した。キャンベル氏はこれらの活性を調べ,寄生虫に対してとりわけ有効な物質を突き止めた。ストレプトマイセス・アベルミティリス(Streptomyces avermitilis)という菌が作り出す物質で,このためアベルメクチンと名づけられた。

 

このアベルメクチンを化学的に改変してさらに効果を高めたのが「イベルメクチン」と呼ばれる薬だ。人間に寄生した幼虫(ミクロフィラリア)を効果的に殺すことができる。

この薬によって,オンコセルカ症(河盲症)やリンパ系フィラリア症など寄生虫が引き起こす感染症を劇的に減らすことが可能になった。オンコセルカ症は寄生虫によって目の角膜に慢性の炎症が起こり,失明につながる。リンパ系フィラリア症は現在も世界で1億人以上が感染し,身体の感染部位が膨れ上がって痛ましい症状を引き起こす(象皮病や陰嚢水腫など)。

 

 

一方の屠氏はマラリアの薬「アーテミシニン」を発見した。マラリアの治療薬としてかつてはクロロキンやキニーネが使われていたが,耐性の発達などで効果が薄れ,1960年代にはマラリアが再び広がるようになった。屠氏は植物を薬として用いる漢方のアプローチに立って多くの植物をスクリーニングし,クソニンジン(Artemisia annua)という植物から有望な物質を得た。抽出法などの改善を重ねて作り出したのがアーテミシニンで,マラリア原虫に大きな効果を発揮する。

詳報は10月24日発売日経サイエンス2015年12月号で

 

 

受賞業績に関連する本誌掲載記事の一例

10億人を苦しめる 忘れられた熱帯病」,P. J. ホッツ, 2010年4月号。

住血吸虫と闘うワクチン」,P. スケリー, 2008年8月号。

伝承を活かす リバース薬理学の挑戦」,B. ボレル, 2014年10月号。

マラリア撲滅への挑戦」,C. P. デュナバン, 2006年4月号。

 

 

 

image:ノーベル財団プレスリリースより

 

サイト内の関連記事を読む