地下生命圏が見えてきた〜日経サイエンス2015年10月号より
下北半島沖の海底下深部で,大昔に陸上にいた微生物群集の子孫が見つかった
海洋研究開発機構(JAMSTEC)が運用する地球深部掘削船「ちきゅう」による下北半島東方約80km,水深約1200mの深海底掘削調査で,これまで知られている中では最も深い海底下約2500mで微生物群集が発見された。
発見された微生物は深海底の海洋性堆積物中でよく見られる種類ではなく,驚いたことに森林や湿地に存在する種類だった。海底下1200~2500mでは全体的に微生物密度が非常に低く,このあたりが生命が存在し得る限界域になっている可能性がある。地球内部の生命圏や生命進化,さらには石炭・天然ガス資源の形成プロセスを考える上で重要な研究成果という。
調査は日本が中心メンバー国である統合国際深海掘削計画(IODP)の一環。2012年7月から9月の研究航海で実施,以降,掘削試料などの詳細分析が進められていた。航海で共同主席研究者を務めたJAMSTCの稲垣史生上席研究員などを中心とする国際研究グループの研究成果で,7月24日付の米Science誌オンライン版に掲載された。
生命圏の限界域を観測
ちきゅうは同じ場所を2006年にも掘削,海底下365mまでの試料を採取した。2012年の掘削では,さらに掘り進んで海底下2466mまでの試料を得た。これは当時としては海洋科学掘削の最深記録だ。
掘削試料から堆積物が形成された環境を推定すると,海底下1400mあたりまでは遠洋性で,同200~400mには“燃える氷”と呼ばれるメタンハイドレートの存在が確認された。海底下約1400mより深くなると,遠洋性から沿岸域の陸棚,さらに浅海(潮間帯)に変わり,海底下約1800mより深いところは陸上の泥湿地帯で形成された堆積物であることがわかった。
また海底下1500~2500mの間には,厚さが0.3~7.3mの褐炭(熟成があまり進んでいない石炭)層が17層挟まれていた。これら褐炭層が形成され始めたのは2000万年以上前。当時,日本海はまだ誕生しておらず,日本列島は大陸沿岸の一部で,森や湿地が広がり,そこで大量の植物が堆積,地殻変動によって地下深く沈むうちに褐炭に変化したと推定される。(続く)
続きは現在発売中の10月号誌面でどうぞ。