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恐竜の歩き方〜日経サイエンス2015年8月号より

恐竜が四足歩行に移行した過程を現代のワニから推定

 

かつてはどの恐竜も二足歩行をしていた。だが一部の恐竜が,安定性を増すため時には4本足すべてを地につけて休んだり走ったりして,ついには四足歩行に進化した。この変化の途中では前肢は後ろ肢よりも短かったわけで,姿勢の傾きをどう補正していたのかという疑問が生じる。“指先”を立てて歩いていたのか,それとも手のひらをべたりとついていたのか?

 

最近の研究によると,どうも後者らしい。初期の恐竜の一部とその近縁種は,手のひらの前方を地面につけて歩いていたようだ。

 

恐竜はワニの祖先と近縁で,体の構造に共通点が多い。そこで生物学者のジョエル・ハトソン(Joel Hutson)と地質学者のケルダ・ハトソン(Kelda Hutson)は,ワニの前肢の構造をワニの祖先で初期の恐竜の近縁種であるポストスクス(Postosuchus)の化石と比較し,関節の可動性を調べた。

 

後ろに反り返る指

2人はワニの標本を様々な状態にして(もとのまま,外皮なし,筋肉と腱を除去,靭帯も除去,軟骨まで除去)にして,各関節の可動範囲を測定した。この結果,骨だけの標本における関節の過伸展(通常の範囲を超えてどこまで反り返ることができるか)が化石と一致することを突き止めた。さらに,ワニの指は軟骨がある状態でも容易に後ろ側に過伸展することを実証した。ポストスクスも同様の過伸展ができたことをうかがわせる。つまり,二足歩行から四足歩行へ移行中の恐竜も,後ろに反り返る指がついた手のひらで歩いていたのだろうと思われる。この結果は3月にJournal of Zoology誌電子版に発表された。

 


Image:striderp64

 

恐竜化石と現生動物の生体組織で関節の可動域を比較した研究はほとんどなかったと,タンパ大学の生物学者でワニの運動の進化を研究している生物学者メアーズ(Mason Meers)はいう。「これは100年前からの懸案を解消する待望の研究だ」。

 

今回の研究は小規模ではあるが,初期の恐竜の歩く姿がいかに奇妙だったかが浮かび上がってきたとジョエル・ハトソンはいう。例えば四足歩行に移行する途上の恐竜たちは,前肢の手首や手のひらのうち片方を地面につけて支柱とし,まるでシギのように立っていたのかもしれない。■

 

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