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腸内細菌がワクチン増強〜日経サイエンス2015年8月号より

ワクチンの効果に個人差があるのは腸内細菌の違いが一因らしい

 

 2006年に経口ワクチンが広く使われるようになるまでは,ほとんどの幼児がロタウイルスに感染したものだった。ひどい下痢を引き起こして脱水によって命を脅かすこのウイルスは,依然として世界で毎年45万人以上の子供の命を奪っている。多くはアジアとアフリカの子供たちで,ワクチンが効かないこともあるためだ。

 

蘭アムステルダム大学のハリス(Vanessa Harris)は,これら地域の乳幼児にワクチンに反応しない「ノンレスポンダー」の割合が高い理由を調べようと考えた。子供たちの大腸にすみついている微生物が何らかの影響を及ぼしているのだろうと推測した。

 

ハリスらは南アジアの研究者と共同で,パキスタンの乳幼児66人と,同じ条件のオランダの乳幼児66人にロタウイルスの経口ワクチンを投与して比較した。オランダの子供はほぼ全員が予想通りの免疫応答を示したが,パキスタンの子供では10人だけだった。ワクチン投与前に子供たちから採取した糞便に含まれる遺伝子を調べた結果,ワクチンに反応した子供の腸は多様な微生物を宿していることがわかった。また,プロテオバクテリア門の細菌が多かった。

 

細菌の鞭毛がワクチン増強剤に

プロテオバクテリアの多くは尻尾のような鞭毛を使って前進する。鞭毛はフラジェリンというタンパク質を含んでおり,フラジェリンは免疫細胞の活性を高めることが知られている。こうした細菌が体内にたくさんあると,天然の免疫増強剤(したがってワクチン増強剤)として働く可能性があると,エモリー大学医学部の免疫学者プレンドラン(Bali Pulendran)はいう。ハリスらの研究はコロラド州で3月に開かれたキーストンシンポジアで報告された。(続く)

 

続きは現在発売中の8月号誌面でどうぞ。

 

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