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ポジトロニウムのエネ初測定〜日経サイエンス2015年8月号より

標準モデルの見直しにつながるか

 


IMAGE:日本経済新聞社

福井大学と東京大学の共同研究チームが,「ポジトロニウム」と呼ばれる自然界で最も軽い“原子”のエネルギー状態の直接測定に世界で初めて成功した。測定値は現在の素粒子物理を支える標準理論(標準モデル)から導き出された理論値とほぼ同じだった。しかし,より詳しい実験をすれば未知の素粒子の存在が示唆され,標準理論の見直しにつながる可能性もあるという。

 

ポジトロニウムは1951年に発見された。電子と陽電子が対になっており,共通の重心を中心としてお互いが連星のように回っている。重さは水素原子の1/900ほどしかない。電子と陽電子のスピンが同じ向きのオルソと逆向きのパラという2つの状態がある。ともに短時間で対消滅しガンマ線を出す。

 

オルソとパラが大きく異なるのはそのエネルギーと寿命だ。エネルギー準位が高いオルソの寿命は142ナノ秒。エネルギー準位が低いパラは125ピコ秒にすぎない。21世紀になってこのエネルギー準位の差が理論値とずれている可能性が磁場などを使った間接測定で徐々に高まり,直接測定の機運が盛り上がっていった。

 

ところがこのエネルギー準位の差,周波数約203ギガ)Hzを直接測定するのに必要なミリ波(テラヘルツ波)の大出力光源が素粒子物理の世界にはなかった。欧州合同原子核研究機構(CERN)でヒッグス粒子の発見に貢献した東大の浅井祥仁教授は,装置業者を通じて福井大が保有する大出力ミリ波源「ジャイロトロン」を探し当てた。周波数を203ギガHzで固定しているが,微調整できる。

 

福井大のジャイロトロン活用

福井大の出原敏孝特任教授(写真上)らは1980年代からタンパク質の構造解析やセラミックスの品質向上,がんの温熱治療などのため,超電導磁石を使ったジャイロトロンを開発。それまでは素粒子物理とは無縁だったが,2008年から東大の研究スタッフを受け入れ,直接測定に向けて動き出した。東大側はガンマ線の検出器を製作した。(続く)

 

続きは現在発売中の8月号誌面でどうぞ。

 

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