空中の浮き球〜日経サイエンス2015年1月号より
物理法則を欺くボールが球技を変えるかも
多くの球技で,ボールの制御は成功のために必須だ。だがボールが物理法則に従わなくなったら? ソニーコンピュータサイエンス研究所(CSL)と東京大学のチームはまさにそんな装置を研究している。その名も「ホバーボール」という。
ホバーボールは直径90mmのクアッドコプター(4つのローターを持つ回転翼機)をボッチ(イタリア生まれのボウリングに似た球技)のボールより少し大きなかごのなかに入れたものだ。空中に浮き,位置を変え,プレー中に動きが変わるように設計されている。重さ10g,電池駆動で5分間続けて飛行できる。最新版は4つのローターをリモコンで操っているが,将来は内蔵プログラムで自律飛行するようになるだろう。
拡張力学がもたらす遊び
空中で予想外の動きをするので,「架空の力学」を統べる「仮想物理法則」によって球技に新しいレベルの自然さがもたらされると,研究チームは2014年3月に神戸で開かれたオーグメンテッド・ヒューマン会議で述べた。
飛行が奇妙になるだけでなく,ボールはプレーヤーの能力の差を埋め合わせてくれるだろうと研究チームは期待している。それによって,子供やお年寄り,身体障害者らがもっとゲームに参加できるようになると,ソニーCSLの暦本純一副所長はみる。
ただし,ホバーボールの商品化はまだまだ先だ。クアッドコプターは飛行するために多くの空気を取り入れる必要があるため,現在はかごに覆いはない。この設計では耐久性に限度があり,接触型スポーツで使える可能性も限られる。
研究チームは頑丈なバージョンを検討している。より大きな電池と丈夫な表面を持ち,重くて固いボールも扱える強力なローターを追加する案などがある。 ■
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