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見逃されていた?超対称性の痕跡〜日経サイエンス2014年11月号より

世界最大の加速器LHCはすでに超対称性の兆しをとらえているのかも

 

素粒子物理学が難局に直面している。物理学者たちが数十年にわたりたどってきた「標準モデル」という理論は2012年末,同理論が予測する粒子のうち最後まで未発見だったヒッグス粒子が確認され,大成功のうちに終点に達した。だが,標準モデルは既知の粒子の振る舞いを非常にうまく記述できるものの,例えば暗黒物質(ダークマター)の正体は説明できない。そこで多くの物理学者が活路を求めているのが超対称性(SUSY)理論だ。

 

超対称性理論は既知の粒子すべてに,より重い相方の粒子が存在すると考える。これら超対称性粒子が暗黒物質なのかもしれない。また,超対称性理論のなかには,他の粒子に質量をもたらしているヒッグス粒子それ自身が持つ質量の値を説明できるものもある。

 

しかし,スイスのジュネーブ近郊にある欧州合同原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器LHCでの超対称性粒子の探索はこれまでのところ成果なしで,超対称性の実在について少なからぬ絶望感が漂っている。「多くの物理学者が悲観的だ」とニューヨーク州立大学ストーニーブルック校のカーティン(David Curtin)はいう。

 

粒子のわずかな過剰

だが最近2つの研究チームが,ひょっとするとこれまでの実験は超対称性の痕跡を単に見逃していたのではないかと疑問を呈している。仮に超対称性粒子がその存在を劇的な形で表すものではなく,平凡なエネルギーの通常の粒子と検出しにくい他の超対称性粒子とに崩壊するような質量を持っていた場合,そうした見逃しが起こりうるという。超対称性粒子はそのようにして,標準モデルの一般的プロセスによって生じる粒子に紛れてわからなくなっている可能性がある。カーティンは一方の研究チームのメンバーで,「超対称性の兆候はすぐ目の前に隠れているのかもしれない」という。

 

実際,改修のため現在休止中のLHCが2011年と2012年に検出していた2種の粒子のわずかな過剰はこれによって説明がつく可能性もある。去る6月に2本の論文プレプリントがウェブ上に公開され,いずれもトップクォークの相方となる超対称性粒子「ストップ」やその他2種の超対称性粒子によってこの現象を説明できると主張している。また,これら超対称性粒子の質量は,ヒッグス粒子の質量をうまく説明できる範囲にあるという。(続く)

 

続きは現在発売中の11月号誌面でどうぞ。

 

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