若山研のES細胞の可能性,遺伝子配列の詳細解析へ
───若山照彦氏は6月22日,遠藤高帆氏の求めに応じてプライマーの配列を送った。だが3日後,事態は急転する。遠藤氏はこのプライマーが15番染色体のどこに入っているかを調べる過程で決定的なミスがあったことに気づき,25日の午前中,若山研に連絡を入れた。「GFPのプライマーは,アクロシンのプロモーターです」 (本文より)
STAP細胞についての論文は撤回されたが,その撤回理由が新たな疑念を招いた。共著者の若山照彦山梨大学教授が先の会見で説明した内容と異なっていたからだ。
若山氏は,STAP細胞から作ったSTAP幹細胞を第三者機関に依頼して調べたところ,15番染色体にマウスを緑色に光らせるGFP遺伝子が入っており,「若山研には存在しない細胞」だったと明言した。だが撤回理由には,この遺伝子の挿入位置が「若山研で維持されているマウス・細胞と一致した」と取れる記述があった。
GFP遺伝子が15番染色体に入っていたというのは,若山氏と第三者機関の解析ミスである。これに気づいたのは,STAP細胞の遺伝子データを解析し,新生仔マウスにはない染色体異常を突き止めた理化学研究所の遠藤高帆上席研究員だ。
このSTAP幹細胞は今のところ,大阪大学の岡部勝教授(当時)が作ったB6 系統のマウスと,若山氏の研究室で維持していた何らかの129系統のマウスを掛け合わせた雑種マウスの細胞である可能性が高い。岡部マウスには3番染色体に,遺伝子を精子で働かせるアクロシン・プロモーターが結合したGFP遺伝子と,遺伝子を常時ONにするCAGプロモーターが結合したGFP遺伝子が連続して入っている。
STAP細胞の実験当時,若山研究室には,岡部マウス,129系統マウス,そしてこれらのマウスを掛け合わせて作ったES細胞が存在した。現在,アクロシンが入ったこのSTAP幹細胞について,詳細な遺伝子解析が進められている。遺伝子配列がはっきりすれば,岡部マウスの仔マウス由来の細胞か,それともES細胞かが明らかになるかもしれない。
解析ミスが判明した経緯とミスの原因,撤回理由が混乱したわけを解説する。
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日経サイエンスの本誌およびWEBで掲載した,STAP細胞関連のニュース記事,解説記事を時系列順で並べまとめなおした総集編です。