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脳の修理にエクソソーム〜日経サイエンス2014年5月号より

細胞内にある小胞が神経損傷の修復に関与

 

 活動的な生活は脳を健康にすると考えられてきた。数々の研究がそれを裏づけており,身体的・知的・社会的な活動(専門用語で「環境エンリッチメント」と呼ばれるもの)は学習と記憶を強化し,老化と神経疾患を防ぐことがわかっている。

 

 最近の研究で,刺激豊かな環境がもたらす細胞レベルの利点が示された。脳細胞のミエリン鞘が修復されるのだ。ミエリン鞘は軸索(神経線維)を保護している絶縁膜で,加齢や損傷,多発性硬化症などの疾患によって失われる。環境エンリッチメントはどのようにしてミエリン修復を引き起こすのだろうか?

 

 細胞に自然に存在する「エクソソーム」という小胞が関与しているようだ。エクソソームは内部にタンパク質と遺伝物質を収めた小さな袋で,様々なタイプの細胞がこれを作り出して体液中に放出している。シグナル伝達分子が詰まったエクソソームが「手紙入りの小瓶」となって全身に拡散するのだと,米国立衛生研究所(NIH)の神経生物学者フィールズ(R. Douglas Fields)は説明する。

 

 エクソソームは特定の細胞に向かい,その細胞の振る舞いを変える。刺激豊かな環境下で免疫細胞から分泌されたエクソソームによって,脳細胞のミエリン修復が引き起こされることが動物実験で示された。病気診断用のバイオマーカーや抗がん剤などを輸送する媒体としてエクソソームを使えるかもしれないと研究者たちは考えている。

 

ミエリンが大幅アップ

 刺激豊かな環境下で生じたこのエクソソームは「マイクロRNA」を運んでおり,この遺伝物質の小片が脳内の未成熟な細胞に対して,ミエリンを作り出すオリゴデンドロサイトという細胞に分化するよう指示を出すらしい。シカゴ大学の研究チームがラットの血液からエクソソームを抽出し,これを高齢のラットに投与したところ,ミエリンのレベルが62%上昇した。2月のGlia誌に報告。

 

 研究チームは将来の治療に向けてエクソソームを自由に作れるよう,エクソソームを体外で作り出す方法も開発した。骨髄から取り出した免疫細胞を刺激することで「自然の環境エンリッチメントをシャーレ内で模擬できた」と,シカゴ大学の神経学教授クレイグ(Richard Kraig)はいう。(続く)

 

 

続きは現在発売中の5月号誌面でどうぞ。

 

 

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