腸内細菌の素早い反応〜日経サイエンス2014年5月号より
食事内容によって数日で変化する
You are what you eat(あなたはあなたが食べたもので作られている=健康は食にあり)というが,体内に生息する細菌にも同じことがいえる。食べ物が違うと腸内細菌叢も異なることは以前から知られていたが,その変化が驚くほど急速に起こることが最近の研究で示された。食事の内容を大きく変えると,数日後には細菌群に測定可能な変化が生じるという。
被験者を2つのグループに分け,片方には肉や卵,チーズなど動物性食品を主体にした食事を,他方には野菜主体の食事を食べてもらったところ,直ちに腸内細菌叢が反応した。例えば動物性の食事では,植物の炭水化物を分解する細菌が減り,脂肪の消化を助ける胆汁に耐えられる微生物が増えた。「数日から数週間あるいは数年かかるだろうと思われたことが,数時間のうちに変化し始めた」と,シカゴ大学の医学教授チャン(Eugene Chang)はいう。
有益な変化とそうでない変化
この急速な変化は古代の人類にとって非常に有益だった可能性があると,論文を共著したデューク大学ゲノム科学・政策研究所の准教授デイビッド(Lawrence David)はいう。狩猟採集生活をしていたころの人類の食事は手に入る食物によって大きく変わっただろうが,マイクロバイオーム(微生物叢)がこれに応じて素早く変化することで栄養を最大限吸収できたと考えられる。Nature誌に報告した。
だが有益な微生物ばかりではない。動物性食品を食べたグループの人たちはビロフィラ・ワーズワーシア(Bilophila wadsworthia)が有意に増加した。マウスで大腸炎の原因になることが知られている菌だ。
ただしデイビッドは何か特定の食事を推奨するのは早すぎると警告する。「この研究からよりよい食事についての結論を引き出そうとする動きが予想されるが,健康に関係する判断を下すのは非常に難しいと声を大にして言いたい」。■
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