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リニアコライダー誘致 歩み鈍く〜日経サイエンス2014年4月号より

研究者は候補地を北上山地に一本化したが,政府には慎重姿勢が残る

 

 国際リニアコライダー(ILC)計画の日本誘致が一進一退の様相だ。昨年9月に日本学術会議が発表した「所見」に基づき,文部科学省は今後,2~3年をかけて誘致の適否に関し調査を進めることを決め,そのために必要な経費を2014年度予算で5000万円要求している。この2~3年の間に,国民や科学界から誘致支持の声があがってくるよう,必要な判断材料を広く提供できるかが課題となる。

 

 ILC計画は全長約30kmのリニアコライダー(線形加速器)で電子と陽電子の衝突実験を行う。欧州合同原子核研究機構(CERN)が大型ハドロン衝突型加速器(LHC)で見つけたヒッグス粒子の詳しい性質の解明や,さらに未知の粒子の発見を目指す。

 

 素粒子物理学者らが組織する高エネルギー物理学研究者会議は2012年に日本主導でリニアコライダーの建設を目指す方針を打ち出した。国内の大型加速器計画としては,高エネルギー加速器研究機構(KEK)のスーパーKEKB(ケック・ビー)計画の後続として位置付けた。科学者の動きと併走するような形で,加速器の建設・運転に伴う投資と地域振興の効果に期待して,国内2地域(岩手県,福岡・佐賀県)が誘致に乗り出した。

 

 昨年6月,ILCに関わる素粒子物理学者の国際組織が装置の基本設計にあたる技術設計書(TDR)を完成,加速器本体と加速器を収める地下トンネルだけで少なくとも8300億円と見積もった。

 

 8月には立地候補の選定を進めてきた国内組織が北上山地(岩手県奥州市を中心とした地域)を候補地として選定した。これに先立つ6月下旬,岩手県の達増拓也知事に会った下村博文・文科相は,国として誘致を決めてほしいとの知事の要望に対し「(秋の)臨時国会で政府としての態度を表明できるようにしたい」と答えたという(6月27日付河北新報,岩手日報)。

 

 東北地域では震災復興の加速につながると期待が高まり,建設・運転に伴う経済的な波及効果が4兆3000億円にのぼるとの「期待値」が繰り返し報道された。素粒子物理学者の間で「(誘致表明までは難しいが,国際協力で進めるための)政府間交渉への意志を示してもらえれば」との期待が高まった。

 

 しかし,誘致表明どころか,政府間交渉への意志もこれまで公式には一切示されていない。誘致期待ムードの転機になったのは,日本学術会議の検討委員会(委員長・家泰弘東京大学物性研究所教授)が9月末にまとめた「所見」だ。(続く)

 

続きは現在発売中の4月号誌面でどうぞ。

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