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大物は急がない~日経サイエンス2014年3月号より

巨大恐竜は体が壊れないよう一歩ずつゆっくりと歩いていたようだ

 

 

 南米の恐竜アルゼンチノサウルス・フインクレンシス(Argentinosaurus huinculensis)は動き回るのが難儀だったに違いない。それどころか,体重約90トンのこの生き物は,単に立っていることでさえ難しかったろう。この巨大恐竜が絶滅した後,巨大な足跡とともに大きな疑問が残った。その重い体重をどうやって動かしていたのか?

 

 「この恐竜は動物の体重の上限にあたる」と英マンチェスター大学の生物学者セラーズ(Bill Sellers)はいう。アルゼンチノサウルスはかつて存在した恐竜のなかで最も重いといえよう。動物は大型化するにつれ,体重の増加に筋肉と骨の成長が追いつかなくなる傾向がある。アルゼンチノサウルスの場合,その巨大な脚で勢いよく歩いたら骨折したかもしれない。

 

時速7~8kmで上品に

 

 セラーズらはスーパーコンピューターを用いたシミュレーションによって,アルゼンチノサウルスの歩き方を探っている。アルゼンチノサウルスの骨格をレーザースキャンして3次元モデルを作った。このモデルは,関節がどこまで曲がるか,4本の脚をどの順序で踏み出していたかなど,57のパラメーターを含んでいる。

 

 研究チームはスーパーコンピューターでそれらのパラメーターを変えながら計算し,最も少ないエネルギー消費ですむ歩き方を突き止めた。時速7~8kmで上品に歩くのが最適だ。去る10月に PLOS One 誌に報告。アルゼンチノサウルスは動きを関節に無理がかからない範囲にとどめることによって,巨体がもたらす落とし穴にはまるのを避けていたのだろう。

 

 この予測は他の証拠とも整合する。例えばシミュレーションから得られた足跡の配置は,実際の足跡化石のパターンとよく似ている。そしてシミュレーションは「化石骨の形を調べた他の研究の結論とも矛盾がない」とストックトン大学の古生物学者ボナン(Matt Bonnan)はいう。

 

 今後のシミュレーションでは軟骨も考慮するべきだとボナンはいう。軟骨は化石には残っていないが,鳥やトカゲなど恐竜に近い現代の近縁種で調べられる。■

 

 

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