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銀河からの逃走~日経サイエンス2014年2月号より

201402_023高速で駆け抜けていく星を調べれば
暗黒物質に関する手がかりを得られる可能性がある

 

 恒星はどれもみな動いているが,なかには他の星より少し元気のよいものがある。近年,移動速度が非常に高く,いずれ銀河系から完全に脱出してしまうとみられる星がいくつか見つかった。

 

 これらの逃亡者はその道すがら,暗黒物質(ダークマター)に関する情報を提供してくれるかもしれない。暗黒物質は宇宙に存在する全物質の85%近くを構成する不可解な代物だ。「その正体を知る者はまだ誰もいない」とスミソニアン天体物理観測所の宇宙物理学者ブラウン(Warren Brown)はいう。だが,暗黒物質が引力を発揮し,銀河のなかを移動する物体の経路を曲げることはわかっている。このため逃亡中の星たちは暗黒物質が密集している場所を明らかにする手がかりを与えてくれる。その情報を利用して,暗黒物質の振る舞いに関する理論のうちどれが妥当かを検証できるだろう。

 

 問題は,それらの星がどんな軌道に乗って移動しているのかが正確にはわかっていないことだ。暗黒物質探査機として利用するには,これらの星がどんな力でどの地点から外へ打ち出されたのか,完全な軌道を知る必要がある。

 

 1つの可能性は,これらのスピード狂が銀河系内の超新星爆発によって放り出されたケース。あるいは,天の川銀河の中心にある超大質量ブラックホールに接近しすぎたため,パチンコの弾のように打ち出されたのかもしれない。この場合,星は銀河中心という既知の場所にさかのぼることができるだろう。「本当に銀河中心からやってきたとわかれば,非常に貴重なケースになる」と,メリーランド大学の宇宙物理学者ボイラン=コルチン(Michael Boylan-Kolchin)はいう。

 

 

スタート地点はどこ?

 だが,どうすれば星がどこからやってきたのかがわかるだろうか? この問題は星の年齢と速度,位置に帰着するとブラウンらはいう。ブラウンらは新発見の恒星HVS17(超高速度星17)の光のスペクトルを慎重に解析し,この星の年齢が1億5300万年で,銀河系の外縁部を時速約160万kmで移動していることを解明した。超新星爆発で弾き飛ばされた星ならこれよりもはるかに若いはずだ。弾き飛ばされた星と爆発した星は隣どうしで,同じ集団に属しほぼ同時期に生まれた星なのだから,短命のお隣さんが爆発して弾き飛ばされたときにはまだ生まれて間もなかったはずだからだ。(続く)

 

 

は現在発売中の2月号誌面でどうぞ。

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