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「ニュートリノなし」の出現はまだか~日経サイエンス2014年2月号より

201402_022長年の謎解きに向けた準備が整った

 

 ある種の放射性崩壊で2個のニュートリノが互いに打ち消しあってしまう「ニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊」と呼ばれる現象の希少さについては,「珍しい」という形容では生ぬるいかもしれない。1個の原子がこの崩壊を起こすのを観測するには,数兆年のさらに数兆倍も待たされる恐れがある。宇宙の歴史よりはるかに長い時間だ。

 

 しかしまた,この現象はそもそもまったく起こらないのかもしれない。これまで見た者はいないが,物理学者たちは是非とも観測したいと考えている。それによって,謎に満ちたニュートリノという魅惑的な素粒子にさらなる多くの秘密が隠されていることが示されるからだ。

 

 素粒子物理学のほとんどの実験では検出器で特定の素粒子を検出しようとするのに対し,ニュートリノなし二重ベータ崩壊の実験は粒子の不在を探す。この現象はより一般的な「二重ベータ崩壊」の変種だ。二重ベータ崩壊では,放射性の原子が別の元素に変化し(例えばキセノンからバリウムに),副産物として1対の電子と1対のニュートリノを放出する。だが,多くの物理学者が予測するようにニュートリノが自分自身の反物質である場合,2個のニュートリノは打ち消しあう可能性がある。そのため実験家たちは,ニュートリノ放出がないことを除いて二重ベータ崩壊とまったく同じ痕跡を残す事例を探している。

 

未知の新領域につながる扉

 実在するなら,このニュートリノの消滅現象はいくつかの新しい研究領域の扉を開くことになるだろう。メリーランド大学の物理学者ホール(Carter Hall)は「ニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊は新しい物理学の必要性を示す決定的な証拠だ」という。最も興味をかきたてられるのは,ニュートリノと反ニュートリノがまったく同一である場合,ほとんどの素粒子がヒッグス粒子から質量を得ているのとは違って,ニュートリノは別の未知の仕組みによって質量を獲得していると考えられることだ。このほか,宇宙に反物質が非常に少ない理由を説明するのに役立つ可能性もある。(続く)

 

 

続きは現在発売中の2月号誌面でどうぞ。

 

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