カメさん,あちらへ~日経サイエンス2014年1月号より
紫外線LEDつきの漁網で混獲を避ける方法
最近のある推定によると,マグロやエビ,タイなどの漁に伴って図らずも網にかかって引き上げられてしまうウミガメは10年で何百万匹にも及ぶという。ほとんどが絶滅の危険性が高い「危急種」だ。こうした混獲がウミガメの死の主因になっていると考えられている。
漁業を完全に禁止すると地元の経済に大打撃となるので,自然保護活動家は漁網に近づかないようウミガメに警告する方法を探してきた。ウミガメは可視光に加え紫外線も知覚できることがこれまでの研究で示されている。これに対し多くの魚は紫外線までは見えない。「ウミガメと魚の視覚的スペクトルには違いがある。つまり紫外線域に,カメには伝えられるが魚には伝わらない選択的な伝達チャンネルがあるということだ」とハワイ大学マノア校の水産技術研究者ワン(John Wang)はいう。
混獲が4割減
ワンらはメキシコのバハ・カリフォルニア・スル州の漁師たちと協力して,再利用可能な電池式紫外線発光ダイオード(LED)を“ウミガメよけ”として利用する実験を行った。刺し網に紫外線LEDを5m間隔で取り付けて点灯させたところ,LEDを点灯させなかった対照の網と比較して,ウミガメの混獲が約40%減った。この結果はBiology Letters 誌に報告された。LEDを点灯させた網は対照の網に比べてかかった魚の数がわずかに少なかったが,経済的価値に有意な差はなかった。
漁師たちは当初この研究への参加に消極的だったが,やがて「漁業を犠牲にしてまでウミガメを守ろうとしているのではないと理解してくれた」とワンはいう。長い目で見ると,こうした技術は漁師の経費節減につながる可能性がある。「ウミガメは漁具をメチャメチャにするので,混獲防止策の導入が大きなメリットになる地域もある」と,今回の研究には加わっていないスタンフォード大学海洋問題解決センターの客員研究員ペッカム(Hoyt Peckham)はいう。LEDの現在の価格は1個2ドルほどだが,下がりつつある。
別の波長の光を出すLEDを使えば,カメを遠ざける一方で商品価値のある魚を引き寄せることができるかもしれないとワンは考えている。2014年にメキシコ,ブラジル,インドネシアでこの案を試してみる計画だ。■
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