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水月湖の年縞,“世界標準時”に~日経サイエンス2014年1月号より

放射性炭素年代測定の精度を高める

 

 水月湖(福井県若狭町)の湖底から取れた珍しい地層である年縞(ねんこう)が,過去5万年以内の化石や遺跡などの地質年代を決定する世界共通の物差しに選ばれた。放射性炭素を使った年代測定の精度を高めるデータが年縞から得られたからだ。日英独などからなる国際研究チームを率いる中川毅・英ニューカッスル大学教授は「世界の標準時が英グリニッジ天文台を基準にしているのと同様,今後は水月湖が地質年代の世界標準時になる」と力強く語った。

 

 水月湖はラムサール条約に登録された三方五湖のひとつで,面積が約4km2の汽水湖だ。年縞は水深34mの湖底の下に存在する。さまざまなプランクトンの死骸に加え,梅雨時には岸から流れ込む土,晩秋には湖水から析出した鉄分,冬には大陸からの黄砂が規則正しく堆積し,あたかも木の年輪のような白黒の縞模様が約7万年分も積み重なっている。

 

 年縞はなぜ珍しいのだろうか? 水月湖には直接流入する河川がなく,外海の波浪の影響も受けない。周囲を山に囲まれて湖上の風は弱く,湖底は無酸素状態で水流を起こす生物がいない。しかも地盤が徐々に沈降しており,沈殿物が長期間静かに堆積するのに理想的な湖水環境といえる。

 

 こうした年縞が見つかっている場所は数少ない。日本では一ノ目潟(秋田県男鹿市)ほか数カ所だけ。世界でもドイツのアイフェル地方やベネズエラのカリアコ海盆などに限られている。保存されている時間的な長さや地層の品質の点で,水月湖の年縞は他の追随を許さない。

 

 国際研究チームは2006年に掘削した約70mに及ぶ資料「SG06」(水月湖2006年の意味)を詳しく分析し,過去5万2000年あまりの時間軸を正確に構築した。年縞に含まれる鉱物や化石,微量元素などを分析すれば,例えば地球規模の気候変動や大地震による津波が起きた年代を数十年程度以内の誤差で決定することができる。(続く)

 

 

続きは現在発売中の1月号誌面でどうぞ。

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