
世界のモノ作りを変える革新的新素材はこれだ
宇宙服はこれで
超断熱性エアロゲルは体積の85%以上が空気で「固体の煙」の異名を取るが,シリカでできた既存のエアロゲルは安手の発泡スチロールのようにもろい。しかし,ずっと丈夫なものが米航空宇宙局(NASA)グレン研究センターとオハイオ航空宇宙研究所(ともにオハイオ州クリーブランド)によって開発された。高分子をベースにしたもので,強度は約500倍。耐熱性のポリイミド樹脂を使っており,柔軟で半分に折りたたむこともできる。NASAはこのゲルを宇宙服の断熱材や,火星に機材を安全に着地させるパラシュートに似た減速機構の一部に使う考えだ。
ずっと使える電池
ナノチューブを利用する現在開発中の充電可能電池は既存品の20倍長持ちする可能性がある。リチウムイオン電池の劣化は,電荷を担うリチウムイオンが正極に出入りする際に正極が膨張と収縮を繰り返すために生じる。これに対しスタンフォード大学のチームはシリコンナノチューブで正極を作り,それをイオン透過性の酸化ケイ素のシェルで覆った。この高強度のシェルによって,リチウムイオンが出入りしても内部のナノチューブが過度に膨張して壊れることがなくなる。現在のリチウムイオン電池は300?500回の充放電で寿命となるが,このナノチューブ利用型は初期の容量を85%以上維持しながら6000回以上の充放電が可能だ。
つるつる皮膜
ある新タイプのコーティングは非常に滑らかな表面を実現でき,ねばねばの蜂蜜を垂らしてもオリーブオイルのように流れ落ちる。潤滑液体含浸多孔性表面の英語の頭文字を取ってSLIPと呼ばれるこの素材は,原油パイプラインの内部摩擦の低減や飛行機の翼の着氷防止,スプレー塗料による落書きを受け付けない壁などに利用できる。ハーバード大学ヴィース生体模倣工学研究所が開発した化学的に不活性な物質が鍵で,これを多孔質やザラザラした固体(コンクリートの壁など)に染み込ませて,表面につるつるの滑らかな膜を形成する。
融通の利くコンクリート
「コンクリートクロス」は丸められるコンクリートシートを必要なところへ運んで施工でき,現場でコンクリートを練って流し込むという昔からの制限から解放してくれる。この素材,最初の形態は円柱状に巻かれた大きくて柔軟なシートだ。これを現場で広げて水をかけ,乾くと固いブロックになる。水路の内張や斜面の侵食防止,壁の補強などに使える。シートは2枚の織物の間にセメントの粉をサンドイッチにしたもので,表と裏の織物は繊維でつながっている。この織物とセメント粉が水を吸い,内部の繊維はコンクリートが固化した後に強固な複合材を形成するのに一役買う。
化学モデルが生んだスーパー合金
金属材料ビジネスで最大の難問のひとつは,軍用機の着陸装置用の合金を開発することだ。できるだけ軽量で,しかもとてつもない強度が要求される。ノースウェスタン大学の材料化学者でケステック・イノベーションズ社(イリノイ州エバンストン)の最高科学責任者を務めるオルソン(Gregory B.
Olson)らのチームは,現在の着陸装置に使われている高価なチタン系合金や鉄鋼と違って腐食防止用の有毒なカドミウムめっきの必要がない2種類のステンレス合金を開発した。これらの新合金は化学的熱力学状態をシミュレートするコンピューターモデルを用いて開発された初の素材で,このコンピューターモデルは今後の合金開発を革新する可能性がある。
植物性プラスチック
植物材料中に見つかった複雑な天然高分子がビスフェノールAに取って代わるかもしれない。ビスフェノールAは衝撃に強いヘッドライトや眼鏡レンズ,DVD,哺乳瓶などに使われる透明なポリカーボネート樹脂の製造に用いられているが,健康に悪影響を及ぼす可能性も指摘されている。台湾工業技術研究院(台湾・竹東)の研究チームはリグニンを基本材料として一連の無害なプラスチックを開発しつつある。食品缶詰の缶の内壁保護膜のほか,ポリウレタンフォームやポリエステルの代替品になる。
耐火性の野戦服
兵士が着る野戦服には炎や熱を防ぐ性能が求められるが,現在の防護用織物は分厚いコーティングを使っているか,耐熱性が不十分だ。ミリケンアンドカンパニー(サウスカロライナ州スパータンバーグ)は意外な繊維に目を向けた。木綿だ。リンを含む添加剤で処理し,炭化しやすい性質を持たせた。火がついても炭化した部分が壁になって,それ以上燃え広がるのを防ぐ。
著者
Steven Ashley
ニューヨークを拠点とするサイエンスライター・編集者。
原題名
Future Stuff(SCIENTIFIC AMERICAN May 2013)